第38話
驚きのあまり、目を見開く。
「……姉さん、知って、いた、の、?」
放たれた言葉に驚きを隠せず、思わず声が震えてしまった。
「もちろん存じておりました。神君が覚醒する前、そう産まれる前から、わたくしはずっと……」
セキと姉を交互に見下ろしてから、その視線を天井に上げる。
「……俺だけか、何も知らなかったのは、」
何か言いかけた姉を遮るかのように不快な警報音が響いて嫌でも耳に届く。
ざわざわと騒がしくなる人々と、冷静に動き出すセキ、それに、姉も慣れた様子で溜息を吐きながらゆるりと立ち上がる。
一礼して、顔を上げてくれたところで、ようやく目線が合う。
「…ここは結界の中で安全ですが、念の為、神君も皆と地下へ避難して下さい。」
昔と変わらない優しい目。
やはりすぐに母の姿を重ねてしまう。
「待って!姉さんは、行くんだろう?」
それ以上は何も応えずに足早に去って行く姉の背中を追いかけようとしたのに、すぐにセキに止められてしまう。
予想通りといえば、そうなのだけど。
「……セキ、俺は大丈夫だから!ハクとアオイ向こうにいるだろう?だから、大芽さんを…って…、」
耳が痛くなる程の音なんだから、起きて当然というか、むしろ起きない方が不思議だろう。
欠伸をしながらのそのそと、まるで緊張感のない様子で歩み寄って来る大芽に、プツンと緊張が解きほぐれて、つい呆れてしまう。
「随分とやかましい目覚ましだな。」
「大芽さん、ここは結界があって安全らしいけど、一応ここの人たちと一緒に避難して。あとでちゃんと迎えに行くから。」
「何、言ってんだ?」
「生身の人間は、何があるかわからないし、危ないって言ってるの!」
「オマエも生身だろう?」
「いや、違う…。」
足元に素早く緑を生み出す。
避難に集中していたはずの人々の動きが止まり視線が、一気に注がれ集まる。
そして向けられるのは恐怖の感情だ。
「……わかったから、驚かすな。すまん、すまん。」
姉からも、その感情が突き刺さるように向けられている、そんな気がした。
「……まずは避難を手伝って。セキも手を貸して。」
わかってはいた。
わからないと、いけなかった。
でも、とても寂しかった。
教会の地下へと人々を避難誘導する姉に、何度か断られても無理矢理助力して、そのまま外へ飛び出した。
高いビルが所狭しと建ち並び、まるであの頃のような風景なのに、空には閃光弾の不気味な光が次々と走る。
土と瓦礫が混ざり合って彼方此方に散乱している地面にそっと緑を生やす。
「……神君、そんな事をしても…」
「姉さん、無駄なんかじゃないよ。というかさ、昔みたいに呼んでよ?やっぱり変だよ。せっかく
調子にのって姉の手を取ろうとして拒否される。
「ごめん…。」
「いえ、すみません。」
他人行儀に扱われるのはやっぱり変だ。
「おい、お嬢さん、ここは……あれか?アンタ何者だ?」
ぼんやりしていたら急に姉に全力で突き飛ばされて地面に勢いよく転がりそうになったが、すれすれでしっかりセキに受け止められていた。
「…もう!姉さんなにするのさ!」
思わず瞑ってしまった目を開けると、さっきまで着ていた長い真っ白なローブをどこかへ脱ぎ捨てて、軍服姿になった姉が、ギラギラと鈍色に光る銃を大芽の頭に向けて引き金を構えていた。
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