第36話
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瞳をパシッと一気に開けると、眼前には青い星があって、視線は自然とそれを見下ろす。
腰掛けている大きな椅子は、冷たいばかりで座り心地が非常に悪い。
すぐ隣には、ぼんやりとした記憶の中に薄っすらと、だけど確実にそこにいたような気がする曖昧な存在の少女がいて、ニコリと嘘のない笑みを見せてくれる。
だけど、それは絶対に花恋ではない…。
少女は耳元でなにかを囁くが、うまく聞き取れない。
だけど、心の底から安心している自分がいる。
再び目を瞑ってしばらくの沈黙ののち、恐る恐る目を開けると、大きな背中が視界を塞いでいる。
「……たい、が…さん?」
小さな呼び掛けに振り返ってくれたのは、よく知る顔だった。
……よかった?
「おう?目が覚めたか?」
起き上がろうとしたのに、誰かに下から強く掴まれているみたいで、全くカラダが起こせない。
でも、痛みや怠さがあるわけではない。
「……まだ、寝てろ。人間なら、確実に死んでいるような傷だったんだ。アイツらが、オレを頼るくらいだ。」
「……俺と一緒に…見た目が同じ歳くらいの女の子…いなかった?」
「さあな?仲良しのシモベさんたちが、連れて来たのは血だらけのオマエだけだ。」
「……そう。」
花恋のあの力は紛れもなくそうだ。
確かめなければいけなかったのに。
確かめられなかった。
どうして花恋が?
望み通りにしてあげた方が、花恋の為には、よかったのだろうか?
そうしたら、悩む必要もなくて?
ふわふわとあたたかい羽毛の敷物に触れながら、セキの気配を影の下に感じる。
ハクとアオイは今は側にいない、気配が珍しく遠い。
「…ねえ、大芽さん、ここは?」
すぐ真上は閉塞的な低い天井で、空気の循環が悪く、風はひとつもない。
耳を澄ませば、すぐそばに無数の話し声がある。
……知らない場所ばかりだ。
「実はオレもわからない。どうしていいのかわからなかったところを、オレも助けられたんだ。」
「………知っている人?」
「いや。むしろ、オマエの知り合いではないのか?オマエの絶対的な命令があるからこそ、百歩譲って仕方なく側にいても邪険にされないオレとはアイツらの態度が最初から違う。命令もなしに、オマエ以外に気を許すヤツらじゃないだろう?」
脳裏にすぐに行き当たる知り合いは出てこない。
「……ところで何日経った?」
「3日だ。オマエにしては、随分、短いねんねだったな。」
「……大芽さんはずっと一緒に?」
「ここから出るなと脅されたからな。だが、3食昼寝付きだから困っていない。」
もしかすると、ここは地下の世界の一部で旧人類のエリアなのだろうか?
だから、自分は崇拝の対象で、共にいた大芽も待遇よくしてもらう事ができている。
それに地上から来た大芽を、知られてはいけない地下のセカイを勝手に歩き回るのを禁じて、この狭い場所に軟禁しているとしたら辻褄がとても合うのだが……
ただひとつ以前あった、あんな大変な事をハクが忘れて、アオイと共に自分から離れている意味がわからない。
結局、なにもわからないという振り出しに戻るだけ。
やっとのことで転がってうつ伏せになる。
「……そうだ、セキも怪我をしていたよね?大丈夫?」
呟くように問いかけると「心配には及びません。」と、いつもの調子のセキの声を聞くことができた。
花恋は死んでいない…。
確証はないけれど
絶対に、また、会える。
でも、その時は……
やっぱり嫌だ。
どうやったら、初めて会った時のように笑ってくれるの?
どうやったら、あんな事を言わずに、まだまだ知らないお互いの事を話せるんだろうか?
たくさん、たくさん、話したい事があるんだ。
まだまだ知らない花恋の顔を、たくさん、たくさん知りたかった。
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