第33話

 完全に信じたわけではない。

確かに妹が心を許した人かもしれないけれど、自分にとってはそうじゃない。

だけど進歩のないまま、現状をグダグダと引き摺るのも嫌だった。

今の自分だけでは、右も左もわからないのが事実だ。

決して己が意志を曲げられようとも首を横に振らない3人から、ありのままを聞き出す術も知らない。

ただ手の中にあるのは、自分ですら怖いほどの膨大な力だけ。

派手になった髪を隠す為に大芽に借りて適当に頭に巻いた布が風に持っていかれそうになって手ではっと押さえる。

足の速い神獣姿のハクの背に揺られて何日か、嫌がるハクを命令で黙らせて、大芽も共に背に乗せて、道を案内をしてもらいながら、地上をコソコソと隠れながら進んだ。


それでも、何百人か、何千人かもしれない…命を摘んだ。


意外と地上にも所々崩壊している箇所はあるものの町としてのカタチが僅かに残っている場所がいくつかあった。

しかし、食糧も乏しく、痩せ細った人々が、小さな争い事を繰り返していて、どこも混沌とした雰囲気で治安は良くない。

あの頃の町とは、もう全く違う場所になってしまった。

どこへ行くにも自由で、沢山のモノの中から、好きなモノを選んで、誰もが当たり前過ぎて気付かない幸せな日常で暮らしていたのに。


「大芽さん、大丈夫?」


木の実を少しずつ齧りながら大芽は、少し離れた地面に腰を下ろす。

最近の食事がそんなものしか手に入らないから心配だった。

自分は食事に困らなくても大芽はそうはいかない。


「オレから見たら、オマエが大丈夫なのが疑問だがな。」


主の手首から滴るアカい雫を無我夢中に啜っているヒトの姿のハクに目線を向けている。


「……俺はヒトとは、もう、違う。」


「ああ、そうだった。すまん、すまん。」


何回この話しをすれば、気が済むんだろうか?

異様な光景に見えるかもしれないが、一緒にいる以上はそろそろ慣れてほしい。

この行為はハクにとっては、ヒトでいう食事のようなモノで、していることは変わらない。

そして、それすら必要のない自分は……


考えても虚しくなるだけか。


それにしても10年間居た、あの場所こそが、この国の軍の中では、とても重要な拠点だったと大芽に聞いた時は驚いた。


……引っかかる。


もうすぐ、


あちこち動き回っていた玄武も、主の気配を感じて今はすぐ近くで動かずにいるようだ。


ハッキリさせよう。


色々な国々が戦況の悪化を利用して、今こそチャンスと言わんばかりに核兵器という恐ろしいモノを行使して、秘密裏に壊してしまいたいほどのものが、そこにある、という話しだ。


信じられなかったけれど


だけど……


「……要様?」


地下セカイの入り口と同じように場所を知っている人物は限られているとアオイからひねるように聞き出して、だからこそ不特定多数の場所に爆撃を仕掛けているという話しと辻褄が合うのに、大芽はその場所を…


「……ハク、ごめん。考え事してただけ。」


自由になった腕をすぐに振って足も動かす。

すぐに追いかけようとするハクに


「ちょっと1人になりたい。結界からは出ないから、安心して。」


そう言葉を投げて、すぐ横の雑木林の中へさっさと逃げた。

こんな事を言っても、必ず誰かが影の中に潜んで付いてくるから、どうやっても1人にはなれないんだけど。






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