第32話

 再び耳に障るほどの轟音が聞こえて、歪めた顔で目を覚ます。


そうだ、また、何時間も何日も無駄にしている。


直ぐ視界に入った、ハクの「おかえり」を告げるような薄っすらとした微笑がなんだか嬉しかった。

そう見たかった、だけ、なのかもしれないけれど、そんな風に思うだけで嬉しいんだ。

一気に起き上がると鉛のように頭が重い。


「……要様、お加減はいかがでしょうか?」


セキはそう尋ねて執拗に顔色を覗く。


「……大丈夫だから。」


砂浜だったはずの場所が一面の緑に変わっている。自分のせいなのは、聞かなくてもわかっているのだが、無意識でも、こんなことが出来るようになったのか?

空がずっと騒がしく、少し考える時間だってくれない。

立ち上がってその場を意味もなく、ただぐるぐる回る。

カラダの痛さや重さは、全て消え、いつものように軽々と動かせる。

まだ痛いのは頭だけか。

そういえば、アオイの姿が見えない。

あちこち見回していると、さっきからなんだか首元がむず痒くて手を伸ばすと髪が肩よりも長くなっている事に気付く。

しかも黒かった髪が、陽の光で金にも銀にも見えるような派手な髪色に変わっている。

これでは、ますます目立つばかりじゃないか。

溜息ばかり吐いていたら、空が静かになった。

あの頃の空はいつもこうだったのに。


何度も呼び止められながらも、それを全て無視して振り返らずに鳥居を跨ぐ。

外は潮風と波の音が心地よい。


「随分と長い、おねんねだったな。まあ、10年に比べたら全然か?」


聞き覚えのある声がして、ハッとする。

こちらに、のそのそと歩み寄って来るのは、何度瞬きしても紛れもなくあの人だ。


「それにしても、だいぶ禍々しい姿になったもんだな。」


「……大芽さん…なぜ…?なんで?」


驚きのあまりそれくらいしか声に出せない。

自分の今の容姿を遠回しに悪く言われている事にすら気付けなかった。


「……久しぶりだな、カミサマ。…と、その前に、そこの怖いねえちゃんをなんとかしてくれ、オマエの仲間だろう?」


そう言ってずらした大芽の目線を追うと、その先には不気味なほど穏やかな顔をしたアオイが立っている。

目が合うとすぐにこちらに向かって頭を下げてそのまま膝をつく。


アオイには特に変わった様子はない。


それに悪い感じはしない。


「オレの話しはどうでもいいんだ。それより悠長にお話ししている場合じゃない。だいぶ戦況が悪化している。また連中は核を使うかもしれんぞ。」


「……核!?」


「ああ、そうだ。次にそうなったら、人類どころか、オマエの大切な庭まで消し飛ぶぞ。」


「大芽さんはそれを伝える為に?」


「そうだな、間違いではない。……率直に言う、少しばかり手を組まないか?」


返答に困っていると、大芽もアオイの隣で膝をつき頭を垂れる。


顔が見えなければ、瞳を通しての心境は、ひとつも読めない。


わざとこんな風にしているのではないか?


大芽を信じてもいいのだろうか?


疑ってばかりいたら、何も進まないのも事実だ。


目線を逸らして、飛行機雲を見上げる。


「……途中で気に食わなければオレの命を奪ったっていい。」


「……ダメだ、大芽さんは、ちゃんとあの場所に帰って、愛の隣にいてほしい。」


「まだ、愛の事を想えるのか…。」


「………?」


顔を上げて目を丸くする大芽を冷たく見下ろした。



















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