第31話

 どんな時でも変わらず、月が沈み、陽が昇る。意思とは関係ない、この世の理。

やっとのことで眠れていたようなのに、ゴゴゴゴゴゴという、耳に刺さるような轟音に強引に起こされて、とても不快だった。

さらに目を開けると、すぐ側で3人が立ち上がり空を睨んでいる、それも不快だ。

無数の戦闘機が、低い位置を飛んでいく。

結界の中にとどまっていれば、あちらからこちらは見えない。曇りガラスのようになっているのだと、大芽が教えてくれた。

それが小さくなるなるまで目で追った。


…気に入らない、どうにもムシャクシャして気分が悪い。


あれは、壊し、奪い、殺す、それだけなんだ。


「……要様…?」


ハクには伝えたくなくても瞬時に伝わっているようで、他のみんなとは、明らかに違うなにか繋がりがあるような。

自分が立ち上がるといつも通り3人はその場で膝を付いて頭を下げる。

まずは、青龍に…

カラダにあるウロコを除けば20代初めの、どこにでもいるような女性のような姿をしているから『アオイ』と、名を与える。

ハクやセキよりも、かなり捻ったし、上出来だと自己満足している。

そのまま続けてアオイにも、『主神君』ではなく、『要』と、名前で呼ぶようにと伝えた。


それから、1番大事な本題の『力の返却』を求めようと思ったが…

ついつい、アオイが立ち上がると、身長差のせいで、丁度目線が、丸く膨らんだ胸元にいって直視できやしない。

ハクやセキは普段、最低限薄い布を巻いただけのような服装だけど、アオイに至っては何ひとつ纏っていない。

さすがにこのままだと目のやり場に困ってしまうじゃないか…。

これもヒトの部分が残っているせいなのだろうか?


「要様、いかがなさいました?」


「いや……その……。」


しかし、こんな場所で服なんてすぐに手に入るわけもなく…悩み抜いた末に、アオイのカラダに蔦を軽く巻いて植物で簡易的な衣を作ってみた。

やっとこれで本題に取り掛かるのに支障がなくなった、かな?

強く噛んで流血した腕をアオイに差し出す。

3回目ともなれば、すっかり慣れたものだし、抵抗も全くない。

アオイの舌先が傷口に触れて吸われている感覚が虚しい。

何故かはじめて怖いと思った。


でも、選んだ道を今更引き返せない。


アオイの血を啜りながら、短い走馬燈というものをきっと見たような気がした。


ヒトとして、今、完全に死んだんだ。


全身が急に熱くなってビリビリと高圧の電流が何度も何度も走ったように凄まじく痛い、耐えられなくなって目の前が真っ暗になる感覚の前に気を失った。


---


お陰で久しぶりに夢を見た。


……夢だと思う。


優しい眼差しで、こちらを見上げる4人をじっと見下ろしている。


ハク…セキ…

アオイ…それに…


何処だろう、知らない場所なのにとてもとても懐かしい。


隣で肩を叩いた少女は、嬉しそうに左手の薬指に、窮屈に嵌められた金の指輪を見せる。


その少女には手の甲から腕にかけて、蔦と花のような模様がびっしり彫られている。



目線を下げると青い星が眼下に見える。


思わず瞬きすると


そこからおちておちておちて


カラダがどんどん小さくなって


産声を上げる


愛おしい眼差しで見つめるのは


……かあさん…?


そして、小さな手を伸ばすのは


……ねえさん…?


大きな手で額を撫でるのは、父さんだ。



全部、全部、きっと幸せな記憶…。








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