第30話

 しばらくセキに身を任せて、ただひたすら2人の気配を辿り空の上を進んだ。

進んでいる間に、何人の命を摘み取ったのか、もはや、わからない。

ただ、目的にむかって必死だった。

宇宙には偵察衛星があり、結界の外のこの国の陸海空は、ほとんど全てが軍の監視下にあるそうだ。

あの頃のような自由なんて、もう、どこにもないんだ。

 茜色に空が染まり月が昇り始めた頃、ようやく地上に降り立って浜辺の近くにある、砂を大量にかぶって、すっかり倒れてしまった鳥居を跨いだ。

こんな状態でも、簡易的な結界はまだ維持されているらしい。

どういう原理でそうなっているのかは、たぶん聞いたところで、わからないだろう。

こんな結界が、はるか昔から、自分のすぐ近くにも沢山あったのに、1つも知らなかったなんて。

結界を生み出す方法を旧人類に与えたのも、遥か昔の自分だというのに。


この近くに青龍がいる。

合流出来れば、またひとつこのカラダに力が返ってくる。

何か些細な事でも思い出したい。


目の前で、あの時とは逆に今度は鳥の姿が溶けてヒトの姿のセキが現れる。

すぐ足元に跪くから、風で乱れていた髪が気になって、ついつい手を出して撫でてしまう。


「……セキ、長い間休みなく飛んで、さすがに疲れたよね?ごめん…。」


「要様に力をいただいたので、大事ありません。」


嫌がったりしないから、そのままさらさら髪を整えながら話しを続ける。


「……無理はしないで。ひとりになったら、今の俺は何もできない。」


「わたしたちは、もう2度と要様のお側を離れませんよ。」


隣にハクも膝をつくから、余っていた左手も伸ばす。

ペットじゃないと言ったけれど…

これじゃあ…

満足そうな顔をしている2人を見下ろして微笑ましくなる。

小動物以外に犬か猫もずっと飼いたかったのに、父さんも母さんも絶対、「うん」と、言ってくれなかったな。


「……要様もお力を随分お使いになりました。どうか再び日が昇るまでお休みください。」


「……そうしようかな…。」


辺りを見回して座りやすそうな岩を見つけて、そこに腰を下ろす。

疲れたという自覚はあまりない。

遠くでさざめく波の音に耳を澄ませて目を閉じる。


ここは、こんなに静かなのに…


別の場所では悲しい音ばかりする。


日が沈んで足元の砂がヒンヤリと冷たくなる。海風にも寒さを感じる。


まだヒトの部分が残っていることが、どんどん嫌になっている。


突然、ハクとセキがパタパタ動く音がして目を開ける。

空は雲に覆われて星も月もなくて、闇しか目には映らないが、敵意は感じない。


そうか……


「……青龍?」


名を呼ぶと、キラキラと全裸のカラダにびっしりついたウロコを光らせて水を滴り落とす絵画のヴィーナスのような長いブロンドヘアーの妖艶な女性がこちらを見て微笑む。


「主神君、おひさしゅうございます。こうやって再会でき、嬉しい限りでございます。」


すぐに足元に膝を付き、頭を下げているんだろうけど、ウロコの輝きがなければ何も見えやしない。

せっかく会えたのに、これではすぐに力を返してもらうのは無理だ。


「……青龍、もう何処にも行かないで。側を離れず、力を貸して欲しい。」


「ええ、なんなりと。」


「とりあえず朝までは休ませて。」


それだけ伝えて、今度は砂の上に直接腰を下ろして、再び目を瞑った。







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