第28話

「あのさ、愛も大芽さんも、どっちも連れて行くつもりないから!ハクとセキだけで十分だし!!」


ついつい感情のままに強く言い放って、一瞬で地面を草だらけにしてしまった。

おかげで静かにはなった。


場を支配するのは紛れもなく恐怖の感情。

驚かせるつもりはなかったのに。


頂点に立つからこその孤独。


ギュッと拳を握って2人に背を向ける。


「……ハク、セキ、行くよ。」


「「御意。」」


自分のせいで誰かの幸せが壊れるのは絶対に嫌だ。

振り返らないと決めて、数歩、歩みを進めたところで、バタバタと大芽が走って来て目の前に膝をついて、頭を垂れる。


「何がしたい?どいてくれる?」


あえて冷たく突き放すが、大芽もそうそう引き下がらない。


「神君、えっと…今までのご無礼をお許し下さい。それで、ここを守るためにも、オレに案内係をさせてくれ…じゃなくて、させて下さい。」


屈する訳にはいかない。

だいたい、ここを守る為と言うならば大芽は、今まで通りここに居た方がいいに決まっているじゃないか?

あくまで平静を保つことを優先しながら、ハクとセキを抑える。


「……どいてって言ってるんだけど。」


地面に這いつくばって、無言になってしまった大芽の横を進んでしまおうと、踏み出す。


「お兄ちゃん!!」


愛の呼び止めるような声は耳に入れない。


「連れて行くのはあたし!そう予言がされているの!その通りにしないと、ここはいずれ結界を失う!結界が無くなったら、みんな死んじゃうの…。」


聞こえない、聞こえないんだ。

踏み出した歩みは、もう止まらない。


だけど、しばらく真っ直ぐ進んで鬱蒼とした森の中に入り込んで、それでも進み続けていると高い壁にぶち当たってしまった。

白い壁は、石でできていて明らかに人工的に削られ積み上げられている。

見上げると、ざっと5メートル以上。

確実にこの壁の向こうが結界の外だろう。

羽があればあっという間に乗り越えられるのに。

すぐ横のハクとセキの顔を交互に眺める。

2人とも相変わらず警戒ばかりして、表情が緩むことはない。

そういえば、昔図書館で見た小説で朱雀といえば、真っ赤な鳥だったような?

ハクがあの時、白い大きな虎の姿になったように、セキも神獣というだけあって、獣の姿に変身できるのではないか?


「あのさ、セキって……飛べるよね?」


突然そんな事を振ってしまったから


「ええ、ですが……」


当然困ったような顔をする。

何故かハクまで焦っている?

そういえば、と、思い出して


「獣の姿になるの、大変なんだっけ?」


カタイ壁をポンポン叩きながら聞いてみる。


「いえ、そんなことは…。」


「俺の力を使って、パワーアップとかできないわけ?」


2人に預けて返してもらった力なのだから、再び貸したりできないかとかるーく思って聞いたのに、セキは急に足元に膝をつく。


「……要様のお力をお借りするなど、滅相もございません。」


真面目に返事をもらっても面白くはない。


「……それって、できるんだね…?」


頷きはしないけれど、きっと確証を得た。


「それで、どうしたらいいの?」


渋って応えない2人を精一杯睨んでみる。

童顔だし、声変わりも遅くてしていなかったのを恨みたくなる。

もっと威厳のある低い声が出せたら、どうだった?


ハクとセキに力を返してもらった時のことを思い出して、ふと自身の腕を見つめる。


もしかしたら、そういうことか?


躊躇いは、一瞬。

がぶりと鋭く歯を立てて腕に噛み付く。


「要様!?」


血は流れたが痛みは予想通りない。


「……セキにお願いするしか方法がないんだ。」


腕をやや強引に差し出すと、セキは迷いながらも、従順にペロペロと血を啜る。










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