第27話

 外へ通じる扉を探して室内をウロウロする時間が勿体無いと感じたから、ハクとセキに助けてもらいながら、手っ取り早く窓から外へ出た。

知らない間に10年も過ぎていたんだ。

これ以上、時間を無駄にしたくはない。

入って来た方向がわからなくても、どの方角に行っても、必ずこの結界の途切れる場所はあるはずだ。


ここを抜けたら、まず先に、ハクとセキに気配を辿ってもらい残りの2人を探す。

力を取り戻したら、どんな些細な事でも思い出すこともあるかもしれないし…。

そして、再びあの場所へ行って真相を知らなければいけない。


着替えと一緒に借りていた革靴を履いていたが、ポイポイと脱ぎ捨てる。

裸足で歩くのが、いつの間にか当たり前になって、靴が邪魔でしかなかった。

整えられた平坦な土の道が続く。

他に建物はなく、道に沿って田んぼと畑だけが並び、人もいない。

いったい誰が、この広大な数ある田畑を手入れしているんだろう?

あちこち見回しながらも、足は一瞬たりとも止めずに進み続けて、やがて景色は深い緑の木々に覆われる。

陽の当たらない木陰に入ると、ヒンヤリと寒いくらいだ。

季節は春から夏へ向かっていると、教えてもらった。

季節の移ろいなんて、あの頃はどうでもよかったのに。

今は新緑に喜びさえ感じている。


突然、背後を歩いていたハクとセキが慌ただしく動きだす。


「……ハク、要様を!」


「わかっています。」


誰かが、ずっとついてくる気配は薄々感じていた。

だけど、その気配に特に危険性がなかったから、気付かないフリをしていたんだけど…2人はそれすら許せないのか…?

呆れてしまうほどだ。


仕方なく足を止め、ハクとセキにもそれ以上その場から許可するまで動かないように小声で命じて、目を瞑って、時計の秒針のような足音に気力を集中させる。

その足音がある程度近付いて物陰に隠れようとした瞬間に、目を開けてバッっと振り返る。


「……愛っ!いったいどこまでついてくるつもりなんだ!?」


驚きのあまり声すら出ない様子で、ただ目を丸くしてコチラを一直線に見つめる目線が同じくらいの高さで、何秒かの間ビックリした。

直ぐにぎこちない歩き方で此方に無我夢中で向かって来るから義足を装着しているのだと気付いた。


「お兄ちゃん!あたしも連れて行って!」


「!?」


愛の考えている事が一切読めない。

一緒に来てなにか得でもあるのか?

そんなはずはない…

結界の外は死が隣にあるようなセカイだ。

ここで幸せに生きている。

幸せを手放す理由なんてない。


自分は手放したくなかったんだから。


フラフラしている愛に急いで歩み寄って手を貸す。


「…うまく歩けもしないのに、無茶言うなよ。」


「お兄ちゃんだって、右も左もわからないくせに……。」


お互いにおかしくなって声を上げて笑い合っていると、向かっていた方向から、また誰か近付いてくる気配がする。


「そうだな、こっちは出口じゃないぞ!」


聞き覚えのある声でよかった。

ハクもセキも命じたままだから動かない。


「大芽!」


「……愛、オマエはガキ共の世話をしている時間だろう?」


「……ごめん、大芽、でも、あたし……」


「……神サマの案内係はオレがする。」


「いや、大芽、行くのはあたしだ!」


そのまま痴話喧嘩を始めてしまった2人を止める術もなく途方に暮れるしかない。


いや、これはチャンスじゃないか!?


このまま、どさくさに紛れて去ってしまえば…


1歩、1歩と静かに離れてみたが、作戦はうまくいかなかった。




















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