第26話
頭の中をリセットするつもりで、仮眠しようと思ったが、やっぱり出来なかった。
カラダを起こすと、いつの間にかカーテンが全部開けられ、そこから眩いばかりに強い陽光が差し込んで、目がチカチカする。
すぐにそれから避けるように視線を下ろすと、両脇に白虎と朱雀を見つける。
無理矢理着てもらった軍服はどこへやったのか、いつも通りの簡素な服装に着替えを済ませ、すっかり元通りに戻っている。
よっぽどその格好が好きなのか?
いや、もしかしたら過去の自分が、縛り付けるような何かを言ったのだろうか?
立ち上がって、テーブルの上の果物に触れ、そのまま手に取る。
「……要様?」
一口だけ齧ると、甘い甘い味覚が久しぶりに口の中に染み渡るように広がる。
果物の美味しさも当たり前でそれが普通だと勘違いして、しっかり噛み締めてじっくり感じた事がなかったかもしれない。
むしゃむしゃと夢中になってひとつ食べ終わって、ベッドまでウロウロ歩いて今度はそこに、どっしり腰を下ろす。
こうする事で自然と床に座っている2人を見下ろせる状態になる。
「……あのさ、2人とも聞いてほしいんだけど。」
自分の思っている偉い人のイメージを体現するように胸を張って腕を組んで、真っ直ぐに強い瞳で見下ろす。
すると2人は静かに足元に額ずく。
一呼吸おいて、いつもより低めの声を出す。
「俺が10年間閉じ込められていた、あの場所に再度行ってみようと思う。ついでにどこかで残りの2人と合流したい。早く力を全部返してもらいたいんだ。」
驚いた様子で顔を上げる2人に対して、表情を変えずに淡々と話しを続ける。
「勿論、危険なのは、ちゃんとわかっているし、途中、俺に銃口を向けてくるような場面に遭遇したらどんな者でも容赦はしない。」
迷いなく言い放って、立ち上がり白虎の前に移動して
「白虎、これからは、ハクと呼ぶ。」
名前を与える。
同じように朱雀の前に移動して
「朱雀、これからは、セキと呼ぶ。」
我ながらセンスのカケラもない簡単な名付けだが、必死に考えたんだし、呼び易さに重点をおいたと思えば100点だろう。
改めて深く深く額ずく2人の下を向いた顔は喜びに満ち溢れていた。
「……何も知らない、至らない主だけど、これからも、ずっとそばにいて、チカラを貸してほしい。」
記憶がしっかりしていたら、神として、もっと正しく在れたのだろうか?
すぐに受け入れて「「御意」」と言ってくれる2人。
これも、ただ甘えているのかもしれない。
でも、今は甘えるしか、方法はない。
「あっ、セキも要でいいよ。寧ろ要の方がいい。残りの2人にも、そうするつもりだし。」
「昔の主神君とは大違いですね?」
「えっ?それって良い意味、悪い意味?」
「それは……。」
「セキ、要様に失礼ですよ。」
「えっ、やっぱり悪い意味なの!?」
お互いに顔を見合って、セキとハクはくすくす微笑む。あまり話しをしていない様子だったから、てっきり2人は仲が悪いのかと思っていたけれど、ただの思い込みだったようだ。
そして、あんなにカタイ表情しか見せなかったハクが、やっと本心を見せてくれたように思えた。
ようやく名前を与えて、2人との関係が前に進んでくれた。
「さて、それじゃあ、早速出発しよう!」
別れなんて告げる必要はない。
今、とても幸せにしている妹の、大事な全てを壊すことはしたくない。
これは兄だった自分として、最後にできる事。
これから神としての自分は、きっと、こんな妹の命ですら摘み取ることしかできないのだから。
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