第25話
ここに来た時に通された部屋に、大芽が呼び付けた女の人に案内され戻ると、見違えるほど綺麗に掃除されて、夜に生やした薄い芝も、全てむしり取られていた。
ここに来るまで、勝手に歩き回らないようにだろう、室内のあちらこちらで見張られている気配を感じた。
神の存在、魂は、旧人類ならば直感でわかるそうだ。何もない真っ暗な空に浮かぶ一等星のようなものだと、大芽が言っていた。
新人類には、その感覚はないが、ただならぬ気配を感じるヒトも中には居るらしい。
部屋の真ん中に用意された、日曜大工で素人が手作りしたようなガタガタの木製テーブルの上には種類様々な果物が沢山置いてある。
「神サマでも、ちゃんと美味しく食べられるようにしたものだ。遠慮なく食べてくれ。」と、大芽が気を遣ってくれてはいたけれど、すすんで口に運ぶ気にはなれなかった。
1つ、何度考えても引っかかる。
白虎が迎えに来て神の力を1つ取り戻したなら、そこから、ヒトを少しずつ辞め、自分の時が止まるはずだ。
なのに、自分のカラダの時間は、もっと前から止まっている。
白虎に会ったのは紛れもなく、つい最近の出来事で、あれが10年前だとは、到底思えない。
それに、毎日、血を採られていたあの行為に、ひどく嫌悪を抱く。
神の力を欲している。
利用しようとしている。
だとしたら……?
あれは…
カタイ床にゴロンと転がって目を瞑る。
「……要様。」
何があってもけして離れず、なによりも大切に心配してくれるのはありがたいけれど、そっとしておいてほしいことだってある。
再会した妹、戻れない故郷…
数えきれない真実が、次々と襲いかかってきて潰れてしまいそうだった。
「……お腹空いたなら、朱雀と、ソレ好きに食べていいから…。」
どうせ食べないのを知っていて、投げるように言い放つ。
ヒトであるからきっと苦しい。
だったら全て取り戻してしまいたい。
苦しみから解放されて、いっそのこと何も考えずに、命を摘み取ってしまえたのなら、とても楽なのかもしれない。
「……お願いだから、少し休ませて。」
神としての記憶が一切無いのも、もしかしたら……
もしかしたら、そればかりが、渦を巻く。
ーーー
大芽は古書を広げ、目を細めてそれを見ながら
「たったひとり。それに自身の一部から創りだした4匹の神聖な獣、加えて、護りの乙女。小規模過ぎるのに、それに人間たちは永久に勝つ事がない。」
すぐ隣にいる愛を抱き寄せて愛おしそうにペタペタ撫でる。
「大芽はそれを変えてしまいたい?」
「いいや、知っての通り、昔からビビりなもんで、争うことはしない主義だ。」
「大芽らしいな…。まあ、人間はどんな事をしても勝てないように創られているとも言えるしな。」
「そうだな。それに、予言通りであれば、アイツはとんでもない神サマだ。絶対、敵にはしたくない、頼んだぞ。」
「……そうだね。でも、予言はあくまで全部が全部その通りってわけでもないんだけど。」
「……変えられる事も沢山ある。うまくいかない事の方が、多いだろうが、予言を潰す為に試してみる価値もある。さっきも…」
「皆んなが無作為に殺されないように?」
「……ああ。」
「あ!大芽、そろそろあたし行かなきゃだ!」
「もう、そんな時間か?」
「大芽もちゃんと仕事するんだぞ?サボるの禁止だ!」
「わかってる。結界の維持と、近隣の戦闘の把握…それに……あれとこれと…」
腕の中からポンと飛び出して、バタバタと慌ただしく動き回る愛が、気になって、つい、いつまでも目で追ってしまう。
愛がここに来て6年、隣にいる事が当たり前になって、それが、なにより幸せを感じられるようになった。
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