第24話
さすがに、完全に2人だけにはしてもらえなかった。
ごちゃごちゃした部屋のすぐ隣りには、スッキリ整理整頓され、片付けられているダイニングキッチンがあって、「こっちで、話そう?」と、愛が昔と変わらない接し方で、そこに通してくれた。
開け放たれたままの扉の向こうには、腕組みして座っている大芽がいて、さらに後ろには、それを睨む白虎と朱雀がいる。
こんな状況で話しが弾むはずがない。
愛がわざわざ流し台によじ登って急須で入れてくれた熱々のお茶には手をつける気になれず、第一声をひたすら探す。
生きていて安心したけれど、こうして再会できて心が躍りそうなくらいなのに、やっぱり失った時間が大き過ぎる。
「……昔みたいに呼んで失礼でしたよね?」
愛はそう呟いて、下を向いてしまった。
このままでは一生話しが始まらない。
まだまだ、何を喋っていいかわからないままだった。
「全然構わないけど……それより愛、結婚の事、父さんと母さんに……」
勢いだけで思った事を声にしてしまった。
聞いたらダメだった。
わかっているのに、わかっていたのに。
「言えたらよかったな。でも……。」
やっぱり、もうこのセカイにはいないんだ。
愛とこうやっていることだけでも奇跡なのに、望み過ぎた。
「ごめん。でも、姉さんは……姉さんは生きているよね?」
「……わからない。でも、大学はかなり離れた場所にあったからきっと生きてるって、あたしも信じてる。」
「やっぱりあの日、街は……。」
「そうだ。そして、見捨てられた。」
「……だから地図にも、もう無いんだね。」
帰る場所なんてなかった。
あるわけがなかったんだ。
何度も絶望しながらも、でも、ずっと小さく期待していた、あの頃の日常に帰れるんじゃないかって。
それが、完全に泡のように、ぶくぶくと潰れて消えていった。
これで、やっと踏ん切りがつく。
話しが進んでいかない様子を察して、大芽が勝手に割って入る。
「オマエたち、残念ながら悠長に話している時間はないぞ。」
大芽に続き、白虎と朱雀もこちらへ来るから、狭い部屋がますます窮屈になる。
「大芽、せっかくの兄妹の再会を邪魔するな。心配している砲撃なら、あたしがさっきハッキングして止めておいたぞ?」
「……止めても、また次から次へと、飽きずに、ぶっ飛ばして来るからな。」
「それが、奴らの仕事だろ?」
「…本当にクソな仕事ぶりだ。」
「お兄ちゃん、今、この国は、立場的には中立を名乗ってる。だけど、戦争してる両国からは、それをよく思われてない。だから、どっちからも攻撃を食らうんだ。まして、地下の奴らともバチバチやってる。だからこそ、この国の偉い奴は、神の力を…お兄ちゃんの力を喉から手が出るほど欲している。」
「……オマエを殺して力を奪おうとするモノ、生け取りにして、オマエ自体を利用しようとするモノ。そして、地下の奴らは、それらを阻止しようとしている、らしい。」
「あたしたちはというと、ハッキリ言って、どれとも、関わりたくはない。ただ今を必死に生きている人たちを救いたいだけだ。だから、お兄ちゃん。ちゃんとみんなが納得できるようなカタチできちんと全て終わらせて?」
「俺が終わらせる…。」
そうだ、ハジマリもオワリも…
そんな事を、前にも言われたじゃないか。
いい加減覚悟しなければ…。
とっくに、決めたじゃないか。
「納得いくカタチで終わらせてくれないと、オレも、オマエを殺したくなるかもしれん。」
ほとんど聞こえないような小声で呟いた言葉だったのに、白虎と朱雀がそれも聞き逃さず今にも噛みつきそうになったから
「2人とも動かない!!」
即座に強く言い放って静止する。
「すまん、すまん。だが、本当の事だから頭の片隅で覚えておいてくれ。」
「大芽……。」
大芽を見上げる愛の表情は、自分には1度も向けられた事のないもので、兄としては少し寂しかったが、花恋がそれと似た顔つきでこちらを見ていた事を思い出した。
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