第22話
着替えて大芽の隣に戻ると、大芽も同じように軍服を身に纏っていた。
相変わらずこの格好でもきちんとボタンは閉めていないものの、風格と威厳を兼ね備え、まるで別人のようにキリッとして見える。
白虎と朱雀には、何があっても、何か言うまで動かないようにと命令を出しておいた。
廊下は3人並んで歩いてもゆったりしている広さだ。
相変わらず、ここでも埃が舞っている。
こんなに大きな家なら掃除をする専門の人とかが居てもおかしくないのに。
家の中を迷路みたいにぐるぐる歩いて階段を3回降りて、また歩いて、疲れて来た頃に、ようやく大きな扉が見える。
「本来なら、客人はこっちに案内するんだ…。予言もあったから、しっかり空けておくべきだったのだろうな。すまない、すまない。」
「いや、別に…。それより予言って?」
「非科学的だが、オレを含めて、ここの奴らは、それを信用して生活してるんだ。」
扉の向こう側には、大きな部屋の中に所狭しと沢山の人たちが床に簡単に敷かれた薄い布団の上で横たわっている。
子供も、青年も、年寄りも、男も女も、みんな関係なく同じように。
怪我の度合いも様々なようだ。
中には唸り声をあげている人や、全く動かない人だっている。
昨日、自分を家の中に強引に入れた女の人たちが、ここでは、水を飲ませたり、包帯を替えたり、こちらに目をくれることもなく、ひたすら忙しそうにしている。
何か手伝いたいと思って、進もうとすると、大芽に肩を掴まれ止められる。
「……悪いが、中へは入らないでくれ。」
どうしてなのかは、わからない。
だけど、ここは黙って従わなければならないと思った。
白虎も朱雀も、何故かとても威圧するような、ピリピリした気を放っている。
命令のおかげで飛びかかっていないだけ…。
まるで、そんな感じだ。
中には見ていて痛々しいばかりの怪我人しかいないのに……。
そうか、この人たちは敵なのか?
そもそも、敵ってなんなんだろう。
戦争をしている張本人で新人類で……?
いや、ここにいる人たちは……
そんな風には見えない。
大芽は中にいる女の人たちと、それぞれにアイコンタクトで何かわからないやりとりして、こちらをチラチラ見た後で扉を音を立てないようにわざわざ両手で閉めた。
「……巻き込まれただけの人間を、どんな奴でも、オレは…いや、オレたちは、助けて、回復したら、それぞれに任せているんだ。三つ巴に勝手に混じってるモノ好きな組織っていうわけだ。オレは親父がやっていたのを継いだだけなんだが。徴兵されるのが嫌だったから、ココに永久就職したってだけだ。」
なにがおかしいのか大笑いする大芽に、とりあえず表情を緩めておく。
「三つ巴って、新人類同士の戦争、それに旧人類…?」
「そうだ。
「……そうなんだ。」
他人事のように頷きながらそう答えると、大芽は眉を顰める。
「……本当に何も覚えてないんだな?」
どうして覚えていないのかもわからない。
どうして忘れているのかもわからない。
あるのは、ちょっとだけ齧った虚偽かもしれない事実。
信じていいのだろうけど、未だに全てを受け入れきれていない。
「覚えているなら、きっと今頃、なんにも苦労していないよ。」
「そうか、そうだな。……立ち話しもなんだ。よし!!ちょっとうるさい奴がいるが、オレの部屋に案内するぜ。」
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