第20話
怒って今にも部屋を飛び出しそうな朱雀をうまく丸めて、だけどさすがに、このまま座ったり横にはなりたくなかったから、床に緑の絨毯を厚めに敷いた。
たとえ部屋の中でも植物は意のままになるようだ。
2人とも、けして離れずそばにいてくれるのに、どうしても胸の奥がずっとザワザワして落ち着かなくて、明かりを消す気にもなれなくて朱雀の背中にくっついて座ったまま目を瞑った。
ここに来るまで、ずっと寝ていたせいだろう。
どんなに眠ろうとしても夢には落ちていけず、ついに空が白み朝を迎える。
「……要様、要様!」
いつの間にか、うとうとして横になっていたようだ。
白虎に名前を呼ばれ渋々瞼をこじ開ける。
カーテンの隙間から漏れる光が、ヒラヒラ舞うハウスダストをキラキラ照らして、困るくらい綺麗で眩しい。
「……白虎?どうしたの?」
起き上がってカラダを伸ばしながら部屋を見渡すと朱雀の姿がない。
交代でもしたのか?
自らの影に目を落とすが気配がない。
「朱雀は?」
「誰かがこの部屋に近付いて来たので、飛び出して行きました。……今のうちに、ここを離れましょう。」
そんな提案をされるのが、不思議だ。
仲間なら見捨てないのが当然で、それはモノガタリだけの話しではないだろう。
しかし目線を合わせても白虎の表情からは相変わらず意図は読み取れそうにもない。
返事を返せず、昨日草だらけにした床に目を逸らす。
「……我々はそもそも捨て置いて問題ありませんから。まずは、要様の御身を…」
「そうじゃなくてさぁ…」
思わず溜息が出る。
やっぱり見捨てるのは良くないと思うし、そもそも、感を澄ませても今のところ、そんな気配は微塵もしない。
確かに、神である自分への態度が、どうかと聞かれたら、地下での扱いを思うと、なかなかヒドイのかもしれないけれど、友達と過ごしていた時のようで気楽で緊張しなくて済む。
立ち上がって数歩、迷いなく金属の取っ手に触れる。
「要様!?」
バンっと、つい力を入れ過ぎて壊れるんじゃないかと思うくらい勢いよくドアを開けてしまった。
するとすぐに睨み合っていた朱雀と大芽が動きを止めたのを見つけた。
「おっ、要サマ、アンタのイヌが怖い、怖い、助けてくれ〜。」
「朱雀!ダメだよ、大芽さんは悪い人じゃない!」
朱雀は悔しそうな顔をたった一瞬したような気がするが、黙ってこちらに歩み寄って足元に膝をつく。
「大芽さん、おはようございます。すみません…朝早くに、また迷惑をかけて。」
「いいや。そいつらはアンタを護る為、もしくはアンタの命令でしか動けない。それが絶対なんだ仕方ない。わかっていて黙って来たオレが悪者だ。」
ゲラゲラ笑っている大芽の事を、すぐ背後に立った白虎も、さっきの朱雀のように、きっと突き刺すような目線で見ているだろう。
「……そうなんですね。」
「さて、ココがどこかだかを、しっかり見せてやろうと思ってな。」
「本当ですか?」
「その堅苦しいのやめろ。アンタ…じゃなくて、要サマの方が上なんだぞ?あーあと、その前に、全員風呂な!風呂!ペットもだぞ?」
「白虎も朱雀もペットじゃないです!」
「じゃあ、友達か?」
「いや、それも…違うし。」
「それにしても、空いてる部屋の中で1番マシな部屋を指定したのに、悪かったな。」
「あれで、マシなの??」
「ああっ、やっぱりまずかったか?」
大芽とたわいもない話しを弾ませて、どんな時も優しかった父親の事を思い出していた。
会いたい…。
また会えると信じたい…。
どうして会えなくなったんだ…。
壊れたモノはやっぱり大きい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます