第19話

 思った通りうまくいった。

うまくいき過ぎたくらいだ。

それはそれは丁寧に中へ通されて、歩けると言ったのに、馬が引く荷台のようなモノに乗せてもらい何重にも続く石の鳥居を何度も何度も潜る。

松明の灯りだけが道なりに続き、周りは竹林ばかりだ。

まるで時代劇に出てくるような一場面のようでタイムスリップしたみたいだ。

鳥居を抜けた先はただひたすら一面の闇で、一緒に乗った案内人が手に持つランプの灯がチラチラするのを横目にしながら、動かずに、ただひたすらじっと座っていた。

カラダを掴んでいる腕の力が緩まらず、朱雀がとても警戒しているのがよくわかっていたからだ。

しばらくして、荷台を降りるようにと、言われて、足元を照らしてもらいながら、朱雀の手も借りて言われた通りにした。

周りの様子がちっともわからないことが、不安で仕方ない。

カラダに感じる空気から、危険はないと理解しているのだが、それでも恐怖が抜け切らない。

扉の開く音がして眩しいほどの光が内側から漏れる。

そこから、自分の父親くらいの年齢の、見上げるほどガタイのいい男が姿を現す。


「えーっと、迎えに行かずにすみません、明日も朝はぇえし(早いし)すっかり寝てたもんで。それにしても予言通り現れるとは、大したもんだな!」


浴衣のような服装が着崩れて、上半身は殆ど裸だ。ゲラゲラ笑って歯茎を見せるのは、どこか品がない感じがするが、さっき「長の元へ案内いたします。」と、言っていたし、ここでは偉いヒトなのだろう。

返事に困っていると朱雀が前に出て、鋭い眼差しでその男を威嚇する。

悪い人の気配は全くしないし、武器になるようなモノも一切持っていない。

ひとまず信じても良さそうなのに、さすがに疑い過ぎだろう。


「……朱雀、大丈夫だから。」


そう言って宥めてみるが、耳に届いていない。しかも、それに加えて影の中にいる白虎も同じように殺気立っている。


「2人ともそんなに怒らないで、命令だよ!!」


困り果てて、かなり強く言ってみたら場の空気が緩んだ。


「さすがは、神サマのイヌサマだな。とりあえず、夜も遅い。あまり広くないが、中で休んでくれ。」


朱雀を押し除けて男の前に立つ。


「ごめんなさい、夜遅くに騒がしくして。それに、あの、ありがとうございます。」


丁寧に頭を下げようとしたところで、男の大きな手が額に触れ、驚いて離れて顔を上げる。


「おっと、神サマに頭下げられたら、それは絶対まずいから、やめてくれ。バチは当たりたくないからな。」


「えっ?バチ?」


男はゲラゲラと笑うが、なにが、おかしいのか?

笑えずにいると、ころっと表情を変えて急に真面目な顔付きをする。


「オレは、ついこの間から、ここの長を務めてる大芽たいがだ。…神サマも名前あるんだろう?」


「…要です。…それで大芽さん、ここは…?」


「朝になったらちゃんと見せてやる!まずは、休め!」


「えっ?」


男の背後から突然現れた年代様々な5人の女の人たちに、わいわい終始賑やかに家の中に強引に引き込まれて、朱雀が止めに入る間もなく、連れ去られた。

案内された部屋は、端っこに大きな白いベッドがたった1つ。しかも全体的に埃臭い。

このベッドで寝たらカラダが痒くなりそうだな…。

床に触れている足の裏がザラザラしているから、しばらく沈黙の中にいたのだと納得した。

変色したカーテンを指でつまんで捲るが、外の様子はわからない。

天井にある電球が、あの頃の日常で当たり前だった明るさだ。










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