第18話
地上に降り立つとフラフラする。
ヒトのカタチに戻った白虎に支えられてなんとか転ばずに済んだ。
僅かに生き残り、足元に必死に縋る命乞いをする人々の命も残さず許さない。
ここで許してしまったら、決意が歪んでしまう気がしたから。
旧人類の軍が、再び地下のあの場所で休むようにと、それはそれは丁寧に勧めてくれたが、あんな事があった後だ。
白虎が護るようにずっとカラダを包んで離さず、ろくに話しも通してくれなかった。
だけど自分自身も再び信じる事ができなかったから別に構わない。
その後は、相変わらず疲れて眠ってしまったみたいで記憶がない。
ゴツゴツした背中で揺られて目を覚ました。
どれくらい経ったのかは、検討がつかないが、多分、以前よりは寝ていない。
カラダもそんなに重くないし、疲れを引きずっている感覚もなくカラダが軽い。
空には一面の星空が広がっているが、地上には闇しかない。
「…あれ?朱雀…だよね?」
白虎だと思っていたら朱雀の背中に乗せられていた。
向かっている先は、残りの2人のどちらかの所だろうか?
「……わたしでは不満でしたか?」
朱雀は足を止めて不安そうに聞き返す。
「いや、いや、そういうわけじゃないけど…。白虎はどこに?」
「……かなり消耗しましたから影の中にいます。」
「消耗?」
「こちらであの姿になると、チカラを多く使います。…汚れているせいでしょう。ですが、休めば自ずと回復しますから…」
ぴょんと勝手に朱雀の背中を降りて、何歩か適当に歩いて深呼吸する。
地面の感触はアスファルトか?
あの戦場からあまり離れていないのか、ここの空気は美味しくない。
冷たい夜風に混じって、まだどこかに焦げた臭いが潜んでいる。
「……主神君、間もなく結界があります。そちらに入るまでは、御身の為にわたしの背に……」
朱雀の腕が的確にカラダを包む。
白虎とは違って、朱雀のカラダはやっぱり骨ばかりみたいでカタイというか、細過ぎて頼りないというか。
だからといってこのまま周りも見えない中を歩いたところで、行き先すらもよくわかっていないし、2人のように気配だけで動けるわけでもない。
そうなんだから仕方なく、再び背中に身を預ける事しかできない。
本当は未だに恥ずかしい気持ちもあったのだけど、真っ暗だし黙ってそうしておこうと思えた。
灯りが1つもない道でも、恐怖は一切ないのだろうか?
こんな暗い道、自分なら進むのを絶対に躊躇って、じっと留まって明るくなるのを待ってから進むだろう。
そのまましばらく無言のまま朱雀に任せて進み続けて、段々と空気が澄んできたところで、突然、小さな松明に照らされた大きな石の鳥居が目の前に見えた。
それはそれは不気味で、まるで罠のようだ。
こんなに目立たせて敵が知らないわけがないだろう。
鳥居の前には、はっきりとは見えないけど歴史の教科書で見たことのあるような甲冑を纏ったヒトがいる。
「こんな時間に何者だ!!」
そう言われて当然だろう。
どこから見ても不審者なのはこっちの方だ。
朱雀の足が止まる。ギラギラした鋭利な刃のようなモノを向けられた。
それに鳥居の横にある監視塔のような場所からも何か武器を複数こちらに向けられている気配がする。
「……貴様らは己が神君を冒涜するつもりか?」
「神君??」
朱雀が何か言ったところで信憑性は低いままだろう。
まさか、神がいるなんて思いもしない。
自分だってそうだった。
でも簡易的な結界があるということは、ここは神を信じている旧人類のいる場所なんだと思う。
だったら…!
背中から無断で飛び降りて、黙々と刃に向かって歩み寄る。
「主神君!?」
「……な、なんだ、お前!?」
刃に蔦をぐるぐる這わせ、向けられた無数の知らない武器も全て緑を生やしてやった。
こんな脅しのような事、本当は嫌なんだけれど。
「……少しだけでいい。休みたいんだ、場所を貸してくれる?」
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