第17話
一気にコンクリートの地面をバリバリと破壊して、植物を
よたよたと朱雀に支えられていたのが嘘みたいに身体が急に軽くなって走り出せる。
「主神君!!」
遠くに小さく見える鳥居を目指していると、徐々に鼻に刺さるほどの火薬の臭いが流れてきて、あちこちでバンバンという音と共に火花と煙が上がっている。
そして奥には、テレビでしか見た事がなかった大きな戦車が数台。
モノを壊しヒトを殺す悪しき道具でしかないのに、あれをカッコいいなんて思っていた過去が恥ずかしい。
敵の数は何百、何千…それ以上?
あんな難攻不落とも思える圧倒的な戦術と装備を兼ね備えた集団に生身でたったひとりで立ち向かって勝てるのか疑問ではあったが、自分自身の存在がこの地球の頂点に君臨する神である事を思えば、なんでもやってしまえそうな、そんな優越感によって勝手に全知全能の力を手に入れる。
実際のところ絶対的な力が備わっているのか、定かではない。
だけど、この大地に全ての命を咲かせたのが、記憶にはないが大昔の自分であること、そして、その命の行方を決める事が、自分の手のひらの中にあって、いとも容易いということは紛れもなく事実なのだ。
鳥居を抜けると、そこには中を護るように白く神秘的に輝く3メートル近くある大きな虎が見上げた先の空にいる。
すぐ下に白い軍服の集団が数百人かたまっている。大きな兵器は特になく、手に持った大きめでどこか大袈裟なサバイバルゲームで見た事のあるような銃だけが頼りのようだ。
その向こうには、2種類の軍服。
戦車、兵器もあって人の数はこっちよりも圧倒的に多い。
戦況はよくわからないが、肌がピリピリするような空気が流れている。
わかるのはここに居て油断するとすぐ側に死があるということ。
身体のあちこちが痛いのは、力が戻ったせいだろうか?
視界だけはやけにいい。
洞察力が鋭くなった、そんな気がする。
誰も自分の事を見つける余裕なんてない。
それは、好都合でもある。
流れる弾は毎秒、毎分、何千もあるはずなのに、不思議と当たることはない。
そうだ風だって味方なんだ。
緑を拡げずに、静かに歩み続けていると、急にあの白い虎が行手を塞ぐ。
「主神君、どうかお戻りを…。まだ危険です。」
「……白虎なの!?」
聞き覚えのある声に、目を丸くした。
「……白虎、なんだね。」
すぐに納得して、やっぱり驚きはなく、それがなんだかつまらなく感じる。
別に刺激が欲しいわけではないけれど。
でも、何か物足りないし、味気ない。
今はそんな事を思っている暇すらないのに、相変わらず、頭の中は平和ボケしているようだ。
「……白虎、力を貸して!」
決して逆らったりしない生き物は、歩み寄って来て黙って頭を下げる。
わしゃわしゃと、猫でも撫でるみたいに頭を触ると戯れるように擦り寄る。
「……上に連れて行ってほしい。ちゃんと、摘み取るから…。」
思いのままに背を借りて、ひょいっと跨って空を駆ける。
こちらに注目が集まったら、それがチャンスだ。
どうやってやったのか記憶に無くても、身体がちゃんと覚えていた。
思うままに、戦場に風を起こして、人々を撹乱させ、植物を一気に芽吹かせる。
戦車や兵器からも次々と草が茂る。
そして、ヒトも内側から徐々に芽が出て、混乱の中、人体の穴という穴からそれが伸び、血を吹き出して、やがてカラダを滅ぼす。
役目を終えた植物は、ただ枯れて地面にひらひらと落ちる。
戦場は一気に、まるで晩秋の森のような景色に変わる。
真っ赤な紅葉も過ぎ去って、雪をかぶるだけの褐色の葉ばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます