第15話
「やはり、ヒトを信じたのがそもそもの間違いでした。あなた方も、もうだいぶ混ざってしまっている。それなのに主神君は……」
白虎は腕の中に、気絶するかのように眠りに落ちた主を抱え、駆け付けた兵士をギロリと睨みつけ、珍しく顔に激しい憎悪を浮かべていた。
そのまま周りに誰も寄せ付けさせず、何処かへ向かい真っ直ぐ足を進める。
「白帝!」
騒ぎを聞きつけ慌てて追いかけて来た花恋の呼び掛けには振り返らない。
「白帝、どちらに行かれるのですか!?神君をどうか、手当てさせて下さい!おばば様の住まう最上聖域にご案内します。そちらは、絶対に安全ですから!」
花恋はどんなに無視されても背後を追い続ける。
「白帝、お願いです、お願いですから!」
無我夢中で、足元を見れていなかった。
段差に躓いて地面に転がってしまう。
どんどん離れていく背中に決して届きはしない手を必死に伸ばす。
「白帝、私も!私も連れて行って下さい!」
声すらも無常にも受け取ってもらえない。
でも、その足取りが何処へ向かっているのかは、だいたいわかった。
絶対に自分が足を踏み入れてはいけない場所で、それは許されない。
ホンモノの緑も青も、キラキラしてあたたかい太陽の光も知らないまま死ぬのが私だから。
制止しようと、さらに各所から大勢集まって来た兵士たちだが、畏怖を宿した鋭い瞳には怖気付いて何ひとつ出来やしなかった。
2人の姿が見えなくなって、花恋はぺたりと地面に座り込んで大粒の涙を流す。
途轍もなく悔しかった。
決まり事を守って生きることしかできないの?
私にはこの狭いセカイしかない?
…違うでしょう?
差し伸べられた手を取らずに立ち上がる。
「聖女様?」
抱いた気持ちは簡単には捨てられない。
捨てたくなかった。
そばに落ちていたすっかり枯れた蔦をひとつ手に取って握りしめる。
必ず…必ず…
その後直ぐに、誰からも見送られる事もなく、ひっそりと数名の軍の女性たちに守護されながら正式なルートを丸1日かかって通って花恋は聖域に戻された。
神への反逆は、
すぐに女、子供を含む全民が調査され、罪人が隈なく炙り出され、数週間で数千人が断頭台送りになった。
決まりとはいえ、こんな事を、あの方が望んでいる?
私には信じられない。
しかし、1つでも疑問を浮かべたら、自分も刃に晒されるだろう。
聖女であることなんて関係ない。
寧ろ、聖女の身であって神に反逆したと疑われた方が酷い。
細部まで丁寧に、まるでホンモノのように作られたニセモノの白い花束を、花恋は泉の横の小さな祠にそっと供え、手を合わせる。
せめてもの、慈悲を…。
心が落ち着くまで、目を瞑っていた。
目を開ければこのセカイの聖女である私はもうどこにもいないんだ。
目指そう、私の居たい場所を。
広いセカイへ羽ばたこう。
だけど、軽率な行動はできない。
死んだらおわりだ。
生きているのからこその想いだ。
出入り口に関しては話しを聞いた事がある程度で行った事は今まで一度もなく、地上の知識だって少ない。
軍が地上に出る瞬間に紛れられたら、うまくいくかもしれないけれど…
聖域にいては、そのタイミングを見計らう事が叶わない。
途方に暮れながらも少しでも時間を無駄にするわけにはいかないと地上に関する本を書庫で漁る日々が何日か続いたある日、花恋の肩をトントンと叩いた人物がいた。
「……貴女は!?」
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