第14話

 目を開けると、辺り全てが真っ暗で、だけどすぐ近くに誰かの気配がある。

でも、居てほしい人の気配ではない。

起き上るとすぐに腕を掴まれる。

別に宛もないし、全然今の周りの様子もわからないから逃げたりしないのに。


「……要様。」


ピリピリと伝わる警戒心。

ここには悪い人はいないと思うけれど…


「花恋は?」


「別室で休まれると……。」


「そっか。」


立ち上がって深呼吸して背伸びする。

やっぱり閉塞感が空気を不味くしている。


「電気か灯りか…何処にあるんだろう?」


手を空間を探るようにぐるぐる回して動かしながら、足を踏み出す。

ふかふかの布団の上から、すぐにツルツルの床へ、そして段差も見つけた。

裸足だと足の感覚も少しは頼りになって便利だ。


「要様、あまり不用意に動き回らないで下さい!」


「大丈夫。」


ダンダンという自分以外の音がして、身体を止める。

……重い足音のような音?

その音は、少しずつこの部屋に近付いている気がする。

壁を見つけて、その壁に耳をぺたりと張り付ける。


「要様…」


「静かにして。」


音もなく不意に背中を包まれる。

もはや驚きはしないけれど、こんな暗がりでも白虎はピンポイントで自分の主の居場所を把握しているようだ。

さすが、というべきか?


「……誰か来る?」


おかしい、空気がビリビリして、敵意を感じる。そして、あの時に知った嫌な臭いがそれと共にある。

嗅覚も聴覚も鋭く尖って、集中すれば何でも分かってしまいそうだ。


…花恋は無事だろうか?


ぴたりと音が止まった。

その場所を研ぎ澄ました感覚で瞬時に把握して、手のひらを向ける。

蔦を一気に伸ばし、壁を貫き破壊する!


「誰なの!!」


さぁぁっと地面に緑を広げて、薄暗い廊下の灯りが溢れて不気味にそれを照らす。

相手の顔はしっかり見えないけれど、白い軍服を着ている。

地上の人間ではない?


「……まだ、全てを取り戻していないと聞いたのに…さすが!だが、人類存亡の為!死んでもらう!!」


向けられた銃口から、弾丸が次々と飛ぶ!

怯まずに蔦を操っていたのに、瞬きしているよりも速く白虎に抱かれ後退していた。


やはり、銃だけ壊して、できる限り命を奪う事を避けようとしているのがバレているのか…。


ただならぬ物音に気付いたのか沢山の足音が、どんどんこちらに向かって来る。

このままでは自分のせいで傷付く人が出てしまうかもしれない。

1人も傷付けずに終わらせたい。

自分のせいで誰かが犠牲になるのは絶対に嫌だ。


「ちょっと邪魔しないで!」


何発も何発も無作為に飛ばされる銃弾を、空間に限りのある部屋の中をぴょんぴょん跳ねて白虎は、スルスルと的確に避けている。


「しかし、要様!」


「大丈夫だから!離して!命令だよ!」


強く言い放つとようやく身体が自由になる。

乱発される銃弾は全く見えない。

蔦を巻け!

相手の身体に巻いて巻いて、自由を奪うイメージだ。

急に肩に痛みが走る。

当たってしまったって、どうでもいい!!


イメージを強くして、どうしてこんな事をするんだ!と、怒りに近い感情を、つい乗せてしまった。


ぴたりと弾丸が止まる。


苦しそうな呻き声のすぐ後に巻いていた蔦がずっしり重くなって、相手が事切れたのが、手の感覚にしっかり伝わって来た。


また、だ。


灯りが灯されると、自分のしてしまった事がハッキリ見えて、地面にポトポト落ちている自分の赤よりも痛かった。


「要様!」


白虎の腕がまた身体を包む。

優しくて酷い。

この手はどんな事をしても甘やかすんだ。


ストンと意識が飛んでいく。

再び暗闇に落ちる。






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