第11話
立ち上がると、すぐに引き止めようとする花恋の口を、人差し指でちょんとおさえる。
また、妹と同じ扱いをしてしまった。
「……大丈夫、今は地上には出ない。ここがどんな場所なのか、全然記憶にないから、知りたい、それだけなんだよ。」
けれどやっぱり妹とは違って、反抗的な態度は全くしない。それが、なんだか調子が狂う感じもするけれど。
「……地上に絶対出ないと約束してくれるなら…。」
あんな風に何の知らせもなく、唐突に日常が、『普通』が壊されるのは誰だって怖い。
花恋は、それをひどく恐れているんだって、よくわかっている。
扉を開けて、迷わずそこを出ようとした背中に花恋が手を伸ばして触れる。
「…あの、そのっ私も行きます。案内しますから連れて行って下さい。」
「…うん、一緒に行こう。」
振り返って、花恋の小さな手をギュッと握って改めて歩み出す。
灰色でどこまでも続いている無機質な廊下は、嫌な場所を思い出す。
聖域と呼ばれる特別なエリアなはずなのに、ずいぶん殺風景なものだ。
イメージではカラフルな花が溢れるほど沢山咲いて、小さな川がそよそよ流れて、空気も良くて、風が穏やかで、あったかくてポカポカで…って、それって、まるで天国だなぁ…。
「神君、この先、大きな段差がありますから…」
話しはほとんど聞いていなくて、それよりも気になってしょうがない。
まず呼ばれている気がしないし、同じくらいの年齢なのに距離を置かれているみたいで嫌で嫌で苦痛しかない。
「…その呼び方やめない?」
自分がこの地球の頂点である神だ、なんて、ひとつやふたつ話しを聞いただけでは信じられないし、信じてないし。
確かに白虎という霊獣は影の中に従えているのかもしれないけど、そもそも獣ではないし?
鼓動が無くなっても血は流れている。
苦しみや、ちょっとした痛みもある。
傷は昔からすぐに無くなるけど、それは特異体質なだけかもしれないし、
……やっぱり逃げたいんだ。
「えっ?」
「俺の名前は前にも言ったけど要。神君じゃない。」
花恋の目を真っ直ぐに見つめる。
「……要さま。」
首を横に振る。
花恋は周りを、ちょろっと見回して、再び目線を合わせる。
「……要。」
頷いて笑うと花恋もぎこちない笑みを返す。
握ったままの花恋の手には、じわりと汗が滲んでいる。
「……さすがに皆の前では呼べませんけど……。それにしても、私たちの名前似ていますね。」
「…あっ、そうだね!?」
3文字で最初の文字だけが合っているだけで、お互い何処にでもいる名前だけど、そう言われると、深く縁を感じる。
「失礼でしたね、すみません。」
「うんん、なんか運命なのかなって?」
花恋の顔がちょっぴり赤くなったような気がした。
「ほら、要、先を行きますよ!」
「あ、うん。」
気のせい、だったのかな?
段差が大きくて足元が悪い岩を積んだだけのボコボコな階段を数段降りた先には、小さな泉が絶え間なく湧いていて、地下とは思えない明るさの光で包まれている。
地面には緑がほんの少しだけ。
「……地下なのに…不思議な場所だね。」
「人工的な太陽の役割りをしているシステムです。これが開発される前は、地下だから日光を浴びれず病気になってしまう人が多かったんです。」
「偉大な発明なんだね。」
見渡しながら柵のある端っこまで行く。
柵の数十メートル下では、幾人もの人々が泉に向かって平伏して祈りを捧げている。
「この下は、民の居住区です。ここからは行けませんが…。これから兵が地上に出るので皆で、無事の帰還を祈っているのです。」
「地上に?」
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