第10話

 変わらず薄らと瞼に光を感じて、目を開ける。

いつまで同じ感覚でいられるんだろう?

それとも、これはずっと変わらないのだろうか?


とても静かだ…。


どうせ、青年は…白虎は自分の影の中に潜んでいる。

力を返したから、もう、離れられないんだって。


あの時と同じ天井があって、まだ地下世界にいるようだ。


寝返りをうって、また目を瞑る。


地下世界ここにいるのは、旧人類という、神の血を分け与えられ、神に永遠の忠誠を誓ったヒトたちだそうだ。

争いから逃れる為に、数百年かけて、地上の誰にも知られずに密かに広げられた巨大なクニ。

そして、地上で現在戦争しているのが、新人類と呼ばれる、旧人類の中から出てしまった血の誓いを破った罪人から始まったヒトたち…。

彼らは自分たちの私利私欲の為に、壊してはいけないものを、たくさん壊して、無益な争いを続けている。


全てのセカイのハジマリは、地球神。

そして、全てのセカイのオワリも、地球神。


扉を開閉する音がして、足音に気を遣った様子で、そぉっと誰かが部屋の中へ入って来たようだ。

この軽い足音はたぶん……


「……花恋?」


「ああっ、す、すみません!!」


足音で人がわかるのは、前に居た場所の影響もある、か…。

起き上がって頭をくしゃくしゃ触る。

困った事に目覚めはスッキリしないし、あまり良くない。

だけど、花恋にはそれが決して伝わらないように自分の中に隠すんだ。


「……いいんだ。また、知らないうちに寝てしまっていたみたいだから…。」


花恋は歩み寄って来て、すぐ、そばで腰を落として微笑んでくれる。

彼女は産まれてすぐに、聖女に選定され親や兄弟から引き離されて、この聖域と呼ばれる小さなエリアで、殆ど誰にも会わずに生活しているそうだ。

聖女と言っても、なにか特別な力があったりするわけでもなく、ただ、一生涯、清らかに、神の使者として祈りの対象となって生きるだけ。

可哀想だって思ってはいけないのかもしれないけれど、一生自由がないなんて…

でも、ここにいる事で、誰も傷付けず、余計な苦労もないなら、その方が幸せ…なんて、考え方は、おかしくて、間違いなのか?


自分も、あそこに今も居たら…

何も知らずに…

人間として寿命を迎えて…

地球神の御魂みたまは次の身体に引き継がれていたはずだ。


受け入れたくないから、逃れたいから

こんな事を思うのだろうか。


自分にそんな記憶はないが、こうやってヒトとして生きて、転生を繰り返し、地上を、人間を、見守るのは最後にして、セカイを本来あるべき姿に戻す、と、決めたのだとか。

このままだと、セカイは滅びてしまうから、そうするしかない、とも言ったらしい。


地上に蔓延る新人類の命を摘み取るのはもちろん、最後には力を貸してくれている旧人類ですら、摘み取らなければいけない。


「あ!今すぐお茶を持って来て淹れますね?ああっ、お腹も空いてますよね!?食べる物もご用意しますね!」


「……ごめん、いらない。」


冷たく言ったつもりはなかったが


「す、すみません…。」


花恋の笑顔が消えて、下を向いてしまう。

だって、何を食べても美味しくないんだ。

お腹が空かないし、だったら食べる必要なんてない。


「ねえ、花恋。少し部屋を出てもいい?」


問い掛けに明らかに戸惑った様子だったから、言わなければよかったと思った。

だけど、綺麗な青と緑を再び目にしたんだ。

夢や嘘ではなかったから。

今この瞬間も含めて全てが真実で、もちろん、あの日常も、あの日のことも。




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