第8話
こっちで悩んでいるのなんて全く関係なく、向こう側から扉を引いて開けられてしまい、急いで数歩下がると、自分と同じくらいの年齢の長い黒髪の少女が顔を出す。
クラスにも似たような顔がいたような?
どこにでもいる年相応の、背伸びはしているもののあどけなさが残る可憐な少女だ。
なんとなく妹の姿と重なって、顔をまじまじと見てしまった。
妹は生意気なだけで可愛さのかけらもないんだけれど。
「し、し、し、神君!?し、し、し、失礼しました!!」
驚き、かなり慌てた様子でバタバタと床に座り込んで額を床に付けようとして、勢い余ってゴンと鈍い音がした。
「……だ、大丈夫?」
一瞬、手を差し出すのを躊躇いそうになった。
もし、この少女を傷付けたら…
いや、そんなことは…
自分を信じて、震えながら差し伸べた手を、少女は、受け取ってくれなかった。
それどころか床に這いつくばって顔すら合わせてくれない。
そのままお互い無言になってしまった。
仕方なく、手を引っ込めて、こちらも床に膝を折ってぺたんと座る。
「……ねえ、どうしてそんなふうにするの?」
「お、お、畏れ多いこ、ことを…すみません、すみませんっ!」
何度も何度も、床に自らペコペコと頭を打ちつける少女を困惑しながら見下ろす。
なにもかも意味がわからなくて、加えて1つの話しもできず、途方に暮れるしかない。
打開策を模索して、足りない頭をひねる。
テストの点数は、いつも真ん中より、やや下ぐらいだった。勉強が嫌いでもこのくらいなら申し分ないだろうって勝手に思うことにしていた。
まあ、キチンと勉強していたところで、ここで役に立つかと言われたら……
うーん…
「……こっちまで見てるだけで頭が痛くなりそうだよ、もう、やめてよ。俺の事、嫌なら嫌ってハッキリ言えばいいのに…」
ボソボソ呟いたら、ピタっと変な行動をやめて顔を上げてくれた。
赤くなってしまった額に、つい手を伸ばすが、少女がその手を掴んで止める。
さすがに妹と同じような扱いをするべきではなかった、と、反省する。
「……ごめん。でも、痛そうで…大丈夫?」
首をちょんと縦に動かして、やっと微笑んでくれた。
「……神君って、もっと、おかたい方かと、思っておりました。ああ、すみません、聞かなかった事にして下さい…。」
「あのさ、俺はそんな名前じゃなくて、要。君の名前は?」
「……
名前を教え合っただけなのに、なんだか、くすぐったかった。鼓動がないはずなのに、ドキドキしたような気がする。
「ねえ、花恋、ココって何処なの?」
「何処って、えっと……。」
花恋は口籠もって困ったような顔をする。
「……聞いたらダメな事だった?」
「……みんなの安全の為に外部の人には教えちゃいけないって小さい頃から言われてるんです、ごめんなさい。」
「そっか、ごめん。」
「いえ…。」
繋がらない会話が急におかしくなって、笑ってしまう。つられて花恋も笑いだす。
久しぶりに誰かと笑い合った。
前は毎日、毎日こうやって、くだらないことで笑っていたのに…遠い昔の事のようだ。
「そうだ、花恋、なにか用事があったんじゃない?」
「…様子を勝手に見に来ただけで…その、えっと……ごめんなさい。」
「また、謝ってるし。」
何度も何度も笑って、それだけで楽しい気分になる。
ずっと、未来もこうだと思っていたあの日。
それが…壊れて…
でも、あの日がなかったら、花恋に会うこともなかったんだろうな。
なにか1つでも違ったら、今この瞬間は存在しないんだ。
ノックもなく、ガチャっと扉が開いてあの青年が顔を出す。
なんだ、影の中からじゃなくて、普通に来る事もできるんだ?
「要様!!?」
ポカンとしている花恋を、一方的に睨み付けて威嚇するから、立ち上がって腕組みして睨み返してやった。
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