第7話
結局、眠りには落ちていけなくて、仕方なく目を開けパチパチと瞬きをして目を擦る。
ふかふかの茶色い何かの毛皮の上にいる。
その下は畳だろうか?
自宅の自室も畳だったなぁ…。
カラダには、すべすべの白くて大きな分厚い布が掛けられていて、明らかにあの青年とは違う誰かが、手を貸してくれているようだ。
身体をすんなり起こす事ができたし、どうやら思い通りに手も足も指だって動かせる。
艶のある茶色い壁にもたれて、両方の手のひらを目の前に広げて、爪の先、指の間、隅から隅までじっと見つめるが、特に変わった様子はない。
ふうーと息を吐いて、また辺りを見回す。
青も緑も見えないし、静か過ぎて、なんだか前にいた場所みたいで怖くなる。
もしかして、場所は変われど、再び閉じ込められてしまったのか?
やっぱり、外に出るべきではなかったのか?
あの青年の姿も見えず急に寂しさが込み上げてくる。
「……なんだ…いないんだ…。」
小さく呟いた言葉を拾うかのように、ゆらゆらと影が揺れ、そこから青年が姿を現し、目の前で膝をついて
そういえば最初に会った時もそうだった、と思い出して、別に驚いたりはしなかった。
込み上げていた寂しさが自然に消えていく。
冷静に考えて青年は人間とは違う何か…
今まで冷静に考える時間が無かったから、そう思う隙も無かった。
そして、自分も、きっと、もう人間ではない。
もしかしたら最初から…
そんなはずは…?
父がいて母がいて姉がいて妹がいて…
父に顔が似ているって言われた事もあるし
性格は母似らしいし、でも父も母も人間じゃないとしたら?
そんな空想上の物語のような事が本当にあるんだろうか?
疑う事ばかりだが、今、目の前には、まさに象徴が確実にいる。
ただの本の読み過ぎだったらいいのになぁ…。
下を向いたたまま何も喋らない青年を、見下ろして溜息を吐く。
「…他に話せる人はいない?ここが何処なのかも知りたいし…色々聞きたいことがあるんだ。」
顔をやっと上げてこちらに目線をくれた。
「……わたしでは?」
少しだけ可哀想な気もしたが、首を横に振った。
青年は、すぐに下を向いたが、きっと表情に変化はないだろう。
「……直ちに適任者を呼んで参ります。」
淡々とした声がそれを確信に変えた。
再び影の中へと消える青年を心の中で見送ってから、「よいしょ。」と、立ち上がる。
改めて天井の高さに驚く。
もしかして吹き抜けなんだろうか?
4、5メートルは絶対にあると思う。
窓もなくて、おまけに家具もないなんて、誰かが住んでいる部屋だとは到底思えない。
畳の箇所は部屋の3分の1程度で少しだけ高くなっていて、段差をひとつ跨いで降りるとフローリングと似た木製の床だ。
ウロウロ、キョロキョロして、大きな両開きの扉を見つけ、恐る恐る片方のドアハンドルに触れる。
ヒンヤリと冷たい金属の感触が伝わる。
そっと押すと思ったより簡単にそれは開いてしまった。
でも、やっぱり部屋の外へと1人で足を進める勇気はわかなくて、パタンと扉を閉めて元居た場所に戻り再び腰を下ろした。
また、あんなふうに、誰かに危害を加えたら嫌だ。
手のひらに蘇る嫌な感触を握りつぶす。
あの青年が、話ができる人を連れて来てくれるようだし、待ってみるんだ、と、自分に言い聞かせる。
何を焦っている?
何に怯えている?
どうして怖い?
手が小刻みに震えている。
どんなに抑え込もうとしてもだ。
トントンと扉をリズムよく叩く音がして、ハッと我にかえる。
再び扉の前まで勢いで行ったのはいいけれど、開けていいものなのか迷って、ドアハンドルまで数センチで手を止め、その手を鼓動のない胸に当てた。
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