第6話
目を開けると、足元の大地一面に、一瞬のうちに緑の若草が芽吹いて、ふわふわそよいでいる。
目線を上げると、自分の足が勝手にどこかへ向かって歩いている事に気付いた。
自分の足なのに止まらない、止められない。
なんとか動かせるのは目線だけで、まるで誰かが操縦している乗り物に乗っているかのようだ。
さらに目線を上げると、一機の飛行機が空を旋回しているではないか!?
隠れないと…このままだと…
その飛行機から、パラシュートで迷彩柄の服を着たヒトが数名、地に降り立ち、なんの迷いなくこちらに銃口を向ける。
表情はわからないけれど、ひしひしと伝わる、確実な殺意。
隠れないと、隠れないと……
だけど絶対に思い通りにならない。
寧ろ、銃口の方へ向かって、腕を上げる。何故、そんな目立つような事をするんだ?
撃たれてしまう、殺されて、死んで…
いや、もう、自分の胸に鼓動はなかった。
急にテノヒラが炎のようにメラメラ熱くなって、そこから、するりするりと蔦が現れて一気に長く長く伸びる。
魔法使いにでもなったのか?
そうか、やっぱりココが夢の中だから…
パンパンと乾いた音が、何発も何発も響くが、あたたかい、なにかに包まれて、ずっと護られているようで、こんな至近距離なのに不思議と弾はカラダに当たらない。
テノヒラから伸びた蔦は、銃をそして人々を絡め取って、カタイ装備をもろともせず、腹を、頭を、首を、腕を、足を鋭い刃のように突き刺して貫いて、鮮やかな赤い飛沫を舞い上げる。
知らなかった、感覚がカラダに伝わる。
そんなの見たくないはずなのに、目線が動かせなくなる。
「……あははは…ははは…」
笑っている?
なんで、おかしい…
こんなの自分じゃない…自分じゃ…
面白いわけがない
目の前には残酷な光景しかないじゃないか。
バラバラになったヒトだったものを、もう片方のテノヒラからも蔦を伸ばして、ぐるぐると包み込んで、空へ掲げ、とんと飛ばしたらテノヒラをぎゅっと握って、すとんと下ろす。
すると生い茂った草の上に枯れた植物のカケラと蔦だけが、ほろりほろりと落ちてパラパラ散らばった。
苦しい、苦しくて気持ち悪い…。
あの時と同じ…
吐きそうだ。
朦朧としながらも、どこに隠れていたのか目の前に再びパタパタと現れた数名の人を見つける。
今度は、真っ白な足元が見えないほど長いローブに身を包んだ集団だ。
自分の前で膝をついて、頭を下げる。
全くの無抵抗だというのに、またテノヒラを伸ばそうとしている自分を、あの青年がカラダをぎゅっと包んで止めている。
止めてくれてよかった。
……味方……なのか?
何か話しをしているようだ。
でも、耳には雑音しか入ってこない。
コトバを聞き取ることができない。
咳をして、むせて、力が入らなくなって、暗闇に落ちて落ちて……
だけど、とても安心した。
何も見なくていいんだ。
泣きたいくらいだった。
いや、心は、しくしくと、泣いていたに違いない。
夢の中だとしても
もしかしたら現実なのかもしれないし
なにがなんだとしても
自分のコノ手は
ひとをころしたんだ
それも、1度にたくさんの
あんなに残酷な方法で
己に恐怖して震えた。
自分自身が怖くてたまらなかった。
早く日常に戻りたい。
こんな自分、誰か嘘だと言ってほしい。
夢だと…夢なんだと…絶対夢だったと…
「……あっ…。」
パッと目を開けると、高い天井とキラキラしたガラスの照明が目に入る。
残念ながら、また、知らない場所じゃないか。
落胆して、再び目を閉じた。
どうしたら、元に戻れるんだろう…。
全部、全部を信じたくなかった。
あれもこれも、それも、嘘で…夢であってほしかった。
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