最終話 さよなら
最大の難問をクリアして、僕は会社と勉強だけに集中することができた。
大学に通いながら、可能な限り全国を回り、漁協と話をつけた。中国本土にも何度もわたり、少しづつ現地スタッフを増やしていった。インターネットは便利だ。僕たちのナマコの品質が少しずつ中国のトップ料理人やエグゼクティブたちに広まっていき、それでいて生産力をあげることはなかったのでプレミア価値がつきはじめていた。
日本での営業や信用の確立に全力で取り組むことになった。ほかの会社が参入してくるまえに、僕たちはシェアを広めつつ、製品の品質を落とさないように必死だった。
そのあたりのバランスはやはりイルマが頼りになった。何度も交渉を重ね、一定の品質に達しないものは弾き、顧客の信用確保に余念がなかった。
タオちゃんは社長としての威厳を持ち始めていた。
「なめられないようにしないとネ」とケバケバしい化粧をして、似合っていないスーツを着、スーパースポーツカーをゆっくりと走らせていた。
レイ君はそんな彼女のサポートをしたり、僕の秘書として飛び回っていた。学業がある僕の影で、しっかりと社長業をやってくれたのでとても感謝している。
あんずは僕の障害が緩和してきているのを期に、あまり会うことはなくなった。彼女を目にするだけで性欲が暴走しそうになるから僕も助かる。
ひろぽんはロシアを気に入ったようで、会うたびにロシア人のようになっていった。西側にもなんども通い、仕入れた拳銃を日本に向かって飛ばしている。
教授とはあれ以来会っていない。人生を変えてくれた師だと思っている。
「お歳暮でも送ればいいのかな?」と相談したくて、講義の間に起業研究会の部室に寄ってみた。イルマもあんずもおらず、新入生が3人ほど座っていた。あいさつすると「なにか起業されているんですか?」と聞かれたので「うん」と答える。「起業したいの?」と聞いたら「ハイ」と言う。「どんな会社で?」「なんでもいいから稼ぎたいんです」とまっすぐに答えた。「先輩の会社も手伝いたいです」とのことだった。
フ・・とすこし笑ってから「じゃあ、ロシア語をマスターしてくれる?」と彼らに言った。経験がなければ、自分がなにかしたいかなどわからない。
僕は勉強しかできない @hdmp
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