第11話 起業説明会と診断

「これは僕の選んだ道であり、僕の責任で行う事業だ、同時に僕が迷惑をかけた人への贖罪であり、人助けでもある、じゃあ、シンプルにいこう、僕がやる事業はナマコの専門商社だ」


みんなこちらに注目している、誰も質問しようとしない、僕の言葉を待っているのだ。


「もちろん密漁ではない、正規のルートを通したナマコを中国に輸出する、すでに北海道のナマコはブランド化しているが、採れた地域によってブランド化を進め、中国本土へ売り込んでいく、何か質問は?」


イルマが手を挙げる

「すでに既存の業者や漁協がいる、御社の強みはなにか?」

「信用だ、ナマコは海の宝石、乾燥させたものは黄金と同じと言われている、実際にはキロ2万から3万円で取引されていて、その価値から密漁や乱獲が問題となっている、僕の会社は正しく生産管理されたブランドナマコを仲介者を極限まで減らし、顧客に最短距離で届ける」


「売るルートはどうやって作るの?」

「中国で商売をするので、どうしても中国法人の設立が必要だ、そこでタオちゃんの出番となる、現地法人の代表となってもらい、そこを拠点にセールスルートを確立する、最初は高級レストランをターゲットに売り込んでいく」


「私、なにも聞いてないよ」

「失礼、順番がくるってしまったがお願いできるかな?できないならほかの人間を探すか、既存の法人を探す」

「やる!でっかいビジネス!!」


「リスクがでかい、闇ルートの人間が黙っていないぞ」

イルマが真剣な表情をしてこちらを見ている。

「わかっている、教授の仕事で覚せい剤を仕入れに北朝鮮の国境近くに行ったときに体験済みだ、だが、リスクを加味してもやる価値がある」生首で発見されたひろぽん、逃がしてくれた教授。

「教授が黙っていないだろうな、自分の商売を乗っ取られるようなものだろう、お前、殺されるかもな」

「かもしれない、だが、その恐怖に負けていたら教授は何もしないで勝利を得ることになる」

「勝てるのか?」

「勝つ」


「資本金は?それに軌道に乗るまでの時間はどれぐらい見ているの?」

「日本側と中国側の法人を作るが、特に大きな資本は必要ない、乾燥ナマコを輸送してそれを受け入れる小さな倉庫があればいい、2000万ぐらいかな、2年もあれば軌道に乗ると思う」

「その根拠は?」

「あちらの情勢だ、金をもった中国人は本物を求める、日本と違ってまがい物がでかい顔して流通している社会だ、1元管理された生産流通経路を証明できれば、すぐに評判になる」

「資本金はどうやって用意するの?」

「エンジェル投資家を募る、そのあたりはイルマ、きっとお前は知っているだろ」

「知っている、それよりも具体的な動きについて教えてくれ」

「まずはナマコを生産している全国の漁協を回る、それから少量の水揚げを分けてもらい、取引実績を作っていく」

「必要な人員は?」

「俺とタオちゃんだけでいい」

「俺も仲間に入れてくれ、チング」

「悪いが危険で最初は給料が出ないぞ」

「かまわないよ、おもしろそうだ」

「じゃあ、3人だ」

「年商が億に行くのはいつ頃だ?」

「3年以内に必ず」

ヒュウとレイ君が驚く、タオちゃんも顔がほてっている。

「そのあとはレイ君たちに会社を渡す、僕は官僚になるからね、あんずを抱いて、学生生活を終える」


「・・・・・」

場に重たい空気が流れた。

「どうした?全員にとって最高の目標じゃないか?」

「あー」とタオちゃんが言いかけたところで「いや、お前さ・・・」とレイ君が制した、そこでイルマが「そうか、これもサヴァンか」と声を漏らす。


「サヴァン?」

「お前のことだ、このイカれ野郎」

「なんだと?」

「はは、じゃあさ、お前今の戦争ってどう思う?」


「・・なんの話をしているんだ?戦争?ベトナムを舞台にした東西の代理戦争のことか?日本は日米安保を破棄して戦争反対の立場をとるべきって話をすればいいのか?」

「おい」とレイ君が変なものを見ているような顔をして言う。

「お前、今何年だと思っている?」

「今って・・・ちょっとわからないが」

「2022年だよ、いま戦争と言えばロシアのウクライナ進行のことを指す」

「ロシア?ソ連ではないのか?」

「ひっ・・・」とタオちゃんが青ざめる。


「やっぱりな、お前が官僚の面接を突破できる可能性はゼロだ、なぜかは俺よりもあんずに説明してもらおう、レディスアンジェントルメン!東大医学部在籍にして脳外科志望の才女、堤あんずさんでーす!大きな拍手!!」



「よしなって・・えと・・まずごめんね、面白がって・・・キミの症状は脳の一部欠損による機能障害で、認知症の人とかによく見られるの、時間の見当識障害ってやつだね、それをもっていると90歳の人が『自分は20歳だ!』っていうこともあるし、同じ人が『60歳ですけど』って次の日に言うこともあるの、最初にあったころから君の障害についてはわかっていたけど、あの頃は他人だったから深くは話せなかった、本当にごめんね」


あんずの言葉が呑み込めない、認知機能?見当識障害?


・・・僕が?



イルマが畳みかけてくる。

「お前、その代わり機械のような学習能力をもっているだろ?サヴァン症候群に見られるような天才性の発露だ、普通の人間はたった2週間で言語を習得したりしない」

サヴァン?僕が?

「チング、俺も友達としてここで言っておきたい、彼女、あんずさんを抱くのはやめとけ、イルマと付き合ってるよ、そうでしょ?」

イルマとあんずがうなずく

「そうゆうのってなんとなくわかるんだよ、思わせとか、におわせとか、2人の空気かんとかでな、日本式に言えば空気を読むってことだとおもうけど、日本人のお前にその能力が全くないのをいま俺はわかった」


「空気を読めないのはお前の長所でもある、教授のようなヤバそうな極道とやりあう?まともな人間の考えることじゃない、でもお前ならできるんだろうな、お前のナマコ事業はきっと成功するよ、官僚なんてなれなくてもいい、でかい会社の社長になれ、正しい道で、正しく成功しろ、時間の概念なんて他人に任せておけ、お前にしかできないことをやれ」

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