第3話 犬と猫

僕は勉強しかできない。だからこの大学に来たし、ここに来たからにはさらに先に行きたい。それは官僚だ。財務省が第一希望で、そのための道すじもイメージできている。そりゃきつい道だし、もしめでたく財務省に入れたとしてもきつい仕事がまっている。官僚の自殺率はあらゆる仕事の中でもトップクラスで、そのなかでもさらに財務省はきつい。


それでもそこを目指すのは理由がある。僕はそれしかないからだ。僕は何かを生み出したり、他人の上に立つリーダーになったり、愛情を誰かに向けたりできない。事実、データ、要因、情報を頭に入れて吐き出す機械。それが僕だ。


「ああああ!!!でも!!!やりたいいいいいぃぃぃ!!!」


全身から性欲が湧き出てくる。これまでとは比べ物にならない。小川と激流。噴水と火山。高校の同級生とあんず。体中の皮膚から勃起した棒がとびだしてくる感覚。頭がどんどん悪くなってくる。あ、やばい、ヌかないと。


ふぅ・・頭が冷たくなってくる。おかえり、僕のクールな脳みそ。さあ、現状を認識だ。このぼろいアパートから、未来を予測する。輝かしい官僚へのビクトリーロードをイメージする。生まれて、勉強で上りつめて、ていうか勉強しかできなくて、勉強以外をすべて捨てて、そのゴール地点である財務省官僚への道。誰にだって邪魔されないんだ。


冷たい頭はいつもの結論になるが、下半身は熱く燃え滾っていた。無視できないマグマが生まれてる。いつもの勉強も30分も継続できない、あんずが頭にやってきて下半身に火をつける。


翌日も、その翌日も、そのまた翌日も、僕の脳はあんずに寄生され続けた。大学に来ればあんずを探し、あんずの匂いを嗅いだ。不思議なことにあんずの匂いを感じることができた。空気中に散らばる匂いの原子をキャッチし、それが濃い場所を探すことができた。するとここに来ることになる。


「まるで犬みたいだな」

と入間はいう。

「発情期の犬そのものだ」

と僕は答えた。

「わたし猫派なんだけど」

とあんずは笑った。


「じゃあ、入部ってことで」と入間に渡された入部希望所にサインした。「起業はしない、あんずとやりたい」というと「がっついてんねー」とあしらわれる。「どうでしょう?あんず選手?希望はありますか?」「男としてはまったくありませーん」「じゃあ、無理ってことですね」「でも、たった一つだけ希望がありますねー」「希望?それは?」「年商1億の会社を在学中に起業することでーす」「年商1億!それは夢がありますね!」「はい!できたらもれなくこのあんずちゃんがついてきます!」「で、それはどうすればいい?」


イルマとあんずのコントに割り込んで僕は聞く「どうやって年商1億の会社を創る?」


あんずとイルマは顔を見合わせた後笑う。「あはははは!!!それがわかれば苦労しないってーーー!!!!」


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