第2話 めっきりがっつり
「私はイノベーションは大学で起こると思っているの」
と彼女は言った。自己紹介も無しにだ。僕は「そうですか」と言ってから「創造的破壊は資本主義の自重崩壊から始まるとシュンペーターは言ってますが」「そのイノベーションではないの、もっとシンプルな話よ」「シンプルなイノベーションがどうして大学から始まるんですか?」「いま、日本の企業の創造力がめっきり、がっつり落ちてるから」
「めっきり、がっつり・・・」
「そう、めっきりと、がっつりと」
カフェの向かいに座る彼女を見た。上品でエレガントだと思った。使う言葉はともかく、知的で行動力のある女性だとわかる。それに彼女をみていると気持ちが落ち着かない。ぐらぐらと体の中心が揺らいでいる。頭では理解できる。これは
「性欲だ」
「なにが?」
話のジャンプについていけない彼女が笑う。ロングスカートの先にはきゅっきりとしまった足首があり、腰回りにかけてむっちりと膨らんでいて、ウエストは白いサマーセーターでわからないがでっぷりとしているのではない。それは女性らしさで男をばっちりとひっかけようとするファッションとは別ベクトルのよそおいだ。
「性欲をはぶいて、あなたと会話したい」
「あはは!」
自分の女らしさをぎりぎりまで露出させずに、意思と知力と行動力で世の中を切り開いていく。そんな眼力をしている女性は初めてだった。だから後をついていくことにした。ついていったら「よう」と男がいた。
「これが美人局か」
「ひさしぶりだな」
「講義に出席しないからやめたと思っていた」
「知っていることを教えられる時間に意味はない、まあ入れよ」
起業研究会、と銘打たれた看板のドア開け中に入る。細長い部屋だ。中心に事務机が2つおかれていて、その両サイドにパイプ椅子が6脚、5人の人間が座っていた。部屋は以上に汚い。その中心に、ヤツがいた。
「ようこそ、革命の戦士よ」
うーん、と入り口で考えて、そのまま部屋に入らずに閉めた。「いい経験でした」と女に言って部室棟をでようとすると「ちょちょちょ!やりなおし!」とヤツが追いかけてきた。
「せっかくだからさ、お茶でものんでけって」
「起業に興味はない」
「社会を動かしたくないのか?」
「動かしたくない」
「私に興味はないの?」
「・・・・ある」
「お、あんずにホレたか、まあこっちこいよ」
結局「起業研究会」の汚い部屋に入ることになった。
「起業よりもまず、掃除を研究するべきだ」
「斬新な目線からのアドバイスだ、やっぱりお前は起業家に向いている」
「向いていても、起業なんてやらない」
「もし、年商5000万の起業を作れたら、あんずがお前の嫁になってくれる」
「は・・・?」
汚い部屋の角で、パイプ椅子に座りながら煙草を吸う彼女を見た。ショートカットに大きな瞳でこちらを見て微笑む。「ホントよ」
その日から、時間のある時はこの部屋に来ることになった。「自己紹介がまだだったな、入間だ」とイルマは言った。
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