第11話 猛烈なるダンジョン進行

 けれども俺の今世の記憶よりアレクとソルの動きが悪い。どうせ俺に不満を持っているからやる気がないんだろう。ボイコットみたいなものかもしれない。ちゃっちゃと攻略を進めたいが、俺にとっても瀬戸際だった。2人にこれ以上強く出てパーティから外れられたら俺も詰む。


 一度大々的にダンジョン探索をやめると公言した以上、俺とパーティを組んでくれそうな相手は俺にとってもこの2人以外に他になかった。俺は気分次第でダンジョン攻略に挑んだらやめたりすると思われている。そういう態度が俺のパーティ結成に大きなマイナスになっている。

 グローリーフィアは踏破済み階層までワープする機能がある。だがその判定は人毎だ。パーティメンバーの進行度合いが異なれば最も浅い階層にいるメンバーに合わせて攻略し直さなければならない。

 だから27階層まで進んだザビーネちゃんも俺たちに合わせて24階層から仕切り直しだ。

 それ故、ある程度進んだパーティが新しいメンバーを加入させることは珍しい。

 そんなわけでいつ頓挫するかわからない俺のパーティに加入してくれるような奇特なメンバーはほとんどいなかった。


 結果的にはマリーがいた頃より随分進みが早くはなっている。だからマシになっているとは言える。やはりマリーは無駄だ。

 けれども俺が前世やっていたように効率を重視した最速パーティを組めばこんなものではないだろう。


 今もアレクが沼リザードマンを苦戦の上でようやく切り捨て、その半身がべチョリと崩れ落ちたところでようやく一息つけた。

 沼リザードマンは強靭な肉体を持ち、沼に沈んでステルス状態で待ち構えている。知らずに近くを通って急に襲いかかられ、なんとか撃退したもののアレクが左上腕に軽い怪我をした。それをソルが回復呪文で治している。


「ザビーネちゃん、大丈夫か」

「ええ。沼地に私の炎は相性が悪くてごめんなさい。それからちゃん付はおやめくださいと何度も」

「ごめんごめん。いや、全然大丈夫。ちゃんと戦力になってるよ。マリーとは全然違うよ」


 その瞬間、明確に空気が変わる。

 敵は既に倒し終わったはずだ。なのに何故こんなに緊張感と重い空気を漂わせる。沼リザードマンと戦っていた時よりさらに酷い空気感だ。


「おい、ウィル。そんな言い方はないだろ?」

「言い方だと? 本当のことだろ?」

「ふざけるな。だいたい今のもマリーの探知があればもっと早くに気づけたかもしれないだろ!」

「ソルまでそんな言い方しなくてもいいだろ」

「言い方だと!?」


 剣の汚れを拭うアレクの不機嫌は最高潮に達している。確かにマリーの探知は役に立つ。けれども沼リザードマンは沼地に沈んでいる。だからマリーのレベルの探知では確実に見つけられるわけではないはずだ。何だってんだ。

 そうかやはりザビーネが気に入らないのか。そういえばこいつらは主人公であるマリーの攻略対象だもんな。肩を持つのが当然だ。あんなモブの何がいいんだ。


「マリオン嬢がいなくて効率が落ちている。真面目に進める気があるならマリオン嬢を戻せ。そもそも正直なところソルとザビーネは仕事が被る」

「何を言っている。攻撃力が増えたほうが効率的だろう? 効率が落ちたっていうならやる気を出せよ。本来ならもっと進めるはずだ」

「ケッ。それをお前がいうのかよ」


 本当にこのパーティの空気は悪い。

 だがそうだ。俺にも反省すべき部分は多々ある。記憶を取り戻す前の俺は本当に適当にダンジョンに潜っていた。

 思い起こせばこいつらは新しいダンジョンを攻略して国に帰るという目的がある。けれども俺は物見遊山で適当に探検していただけだった。それはとても反省している。だが心を入れ替えた。パーティ結成前に真面目にやると随分謝った。以前に比べて格段に計画的にダンジョンに潜っているはずだ。


 こと、ここに至っては俺もダンジョンで魔王を倒すしか道はない。それ以外にザビーネと結婚する方法、もといマリー以外の誰かとの間でトゥルーエンドを迎える方法がみつからない。

 どうせ結婚するならあんなつるぺたモブより豪奢でぱゆんぱゆんのザビーネちゃんの方が何百倍もいい。


 戦闘の後、もう何度目かもわからない話し合いを再開する。俺もアレクもソルも大きくため息をつき、既にお互い顔も合わせることもない。そんな側でザビーネがおろおろしている。この環境を少しでも改善したい。ザビーネに愛想を尽かされてパーティから離れられるのはごめんだ。それに早く攻略を進めたい。


「俺も反省してる。だから真面目にやる。やってるだろ? だからお前らも真面目にやってもらえないかな。魔王を討伐して国許に戻りたいだろう?」

「てめぇ。どの口でそれを言う。そういうならマリーを戻せよ。ザビーネを追い出せとはいわない。連携の問題もあるがそもそも人数は増やしてもいいかもしれん。けどもマリーがいるといないは雲泥の差だろ」

「まて、何を言ってる? バフなんぞ誤差だろ? よく考えろ、冷静に、冷静にだ。マリーがいた頃と今と何がそれほど違うんだ」

「……クズ野郎とは思ってたが本気で言ってんのか?」


 本当に何を言っているんだ?

 本当にその意味がわからない。

 まるで吐き捨てるようなソルの言葉。一見冷静そうに見えるアレクも地面を見つめて怒気を抑えている。

 だがちょっと待ってほしい。バッファーが使えないなんて常識だ。実際に俺の記憶でもさほど効果はなかったはずだ。本当に気持ち程度のもの。きっと主人公がいて気分が上がるくらいの違いしかない。冷静に考えれば効果がないことなんてわかるはずだ。


 ゲーム内ではガチで鍛えない限り補助職を選んだ主人公はダンジョン内では役立たずだ。そもそも他のキャラを育成すれば主人公自身は戦闘にまるで役にたたなくても、ダンジョンに潜らなくてすら魔王は倒せる。ダンジョン攻略は戦闘用パーティメンバーにまかせてイベント時だけ参加し、通常はカフェ店員だとかピエロだとか変なプレイをするプレイヤーというも多くいる。そういう類だろ?

 マリーは所詮バッファーだ。飛び抜けた高レベルの魔法を使うわけではない。そりゃあ多少は変わるだろうけど、殲滅力のあるザビーネの方がよほど役に立つはずだ。


「なあ、お願いだから前の時のことは水に流してやり直そう。頼む」

「話にならねぇ」

「全くだ。散々恩恵を受けておいて何故そんな薄情なことを言える。これ以上言うなら俺はパーティは抜けさせてもらう」

「ちょ、ちょっと待て、落ち着け2人とも」

「そうだ。そのザビーネと2人で仲良くやるんだな」

「あの、お2人ともすみません。私が至らないばかりに」

「あ、いえザビーネ嬢のことを悪くいうつもりはないんだ。申し訳ない」

「そうそう。すまなかった。俺も言葉が過ぎた。魔法も強いし機転も効く。十分以上だと思う」


 ザビーネが慌てて頭を下げたのを2人で止める。

 そうだそんな筋合いの話じゃない。ザビーネはきっちり働いている。けれどもそういう問題じゃないだろ?

 ……問題はマリーに狂ったこの2人の頭だ。


「でも……」

「ザビーネ嬢。これは本当にそういう問題じゃないんだ。あなたに謝られる筋合いはない」

「アレク……」

「そうだぜ。俺とちょっと役は被るが魔法使いが2枚いても別にちっとも悪くないんだぜ」

「それより問題はウィルの態度だ」

「なんだよ、何で俺の話になるんだよ。俺は精一杯やってるだろ」

「今更なんだよ。それを言うなら何で前はあんなナメプしてたんだよ。お前にとって俺らは何なんだよ。糞。やってらんねぇ」

「そうだ、な。そろそろ俺も堪忍袋の緒が切れそうだ」


 何なんだ一体。

 なんで俺がそんなことを言われないといけないんだ。糞。やはりマリーのせいか。主人公補正ってやつか。

 こっちこそやってらんねーぜ。もういっそのことこいつら2人をクビにしてハーレムパーティでも組むか。

 確かにこの2人は強い。けれどもこのゲームには他にも強キャラは沢山いる。俺は前世のゲームでは女キャラしかパーティに入れてなかったが、それでもダンジョンを倒せるキャラが沢山いる。

 パッと思い浮かぶのはよく使っていた大剣士ハンナ、僧侶カリーナ。2人とも巨乳だ。もうそっちに組み替えるか、な。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る