第7話

季節は巡り秋になった。僕はいつもと変わらず授業を受けたり、バドミントンをやったりする。今日は部活がオフで授業も一限で終わった。いつもの足取りで家に帰ると

「お疲れ様。日葵。」

「……あ!翔平くん!お疲れ様!」

相変わらず記憶を保持できない日葵だが、僕に向ける笑顔や、僕と一緒にやったことについて話をすることが多くなった。

それと僕はアルバイトをしている日葵の姿をスケッチで描くのが日常になっていた。怒っている顔、焦ってる顔、笑ってる顔……。鉛筆で描いているだけなのに、なぜかパレットで色をつけたみたいに日葵の顔には彩りがあった。日葵のおかげで僕の日常にも彩りがついていた。だかしかし、僕はまだ日葵の連絡先を聞けていない。今日こそは聞くぞ!と心の中で思ったが、いつ聞けるかなと思い日葵をのことをチラチラと見る。すると

「なーにやってるんですか。冨樫さん。」

「びっくりした!!林さんか……。」

とイケメンの林さんが気配を消して僕を驚かせた。林さんはフリージアの花を持っていた。林さんは今日休みのはずなのに……と不思議そうに思ったのが伝わったのか

「あぁ。これは妹の友人が大切な人を亡くして、今日墓参りに行くらしくて、それで買いに来たんです。」

と林さんは悲しそうに笑った。人間いつ死ぬかも分からないしな……。

「そうなんですね!」

と僕は明るく答えると林さんは

「人間100年時代になりましたけど、結局人はいつ死ぬか分かりません。亡くなった人はどうなるかは分からないですけど、亡くなった人が遺すものは大きいものです……。」

林さんは眉を下げてそう言った。

「だけど、遺すものがあるということはその人のことを俺たちに忘れないでと言ってるのと一緒で、俺たちが忘れたくても忘れられない……そんな大切な存在になるんです。悲しみは大きいけれどその分生きがいや、自分がどん底に落ちた時のエネルギーになるんです。」

林さんはそう悲しそうに微笑んでこちらを見た。

「だから冨樫さんを見て思ったんです。冨樫さんなら1日1日を一生懸命生きていて、彩りが豊かなんです。悲しいことや、嬉しいこと、俺たちにも伝わってますよ。」

と林さんはそう言った。

僕は日葵に彩りを与えたい。だから毎日が新しいことばかりだ。でもそれは僕がやってるいるからじゃなくて、日葵がいるから僕の毎日は輝いている。そう分かった。

「人の影響ってほんとにすごいですよね。」

と僕は林さんにそう答えた。

「ですね……」

と林さんの持っているフリージアがすきま風に揺られて笑っているように見えたのは僕の気のせいだったのだろうか。


日葵はラストまでいて、両親が次の日の仕入れ確認と店閉めをしようとしていた。日葵は次の日の花束にする花の確認と枯れそうな花をドライフラワーにするための作業をしていた。僕は日葵の手伝いをした。

「ねぇ、日葵。今度の休日どこかに出かけない?」

と僕が誘うと

「いいよ!あ、かーくんに伝えなきゃ!」

と日葵は言うと

「絶対2人きりやで?約束して?」

と僕が言うと日葵は目を見開いて

「わ、わかった!」

とかすみ草を持って顔を隠し、作業場に戻ってしまった。

日葵も僕のこと意識してくれてるのかな?

そんな考えをぼんやりしていると店の閉めが終わり、日葵が帰る準備を始めた。僕は日葵を店の前で話していた。

「お疲れ様。日葵。」

「お疲れ様!あ、出かけるのって土曜日?それとも日曜日?」

と日葵は聞くと僕は部活がまだ土日どっちにあるか分からないことに気づき、

「ごめん!部活土日のどっちかにあるんやけど、まだどっちかはわからへん!」

と言いごめんポーズをした。すると日葵は

「あ!じゃあLINE交換しようよ!これ私のQRコードね!」

と言い僕が聞きたかったことを日葵が聞いてくれて嬉しさもあれば自分がずっと聞けずにいて、日葵が聞いてくれた恥ずかしさもある。僕はスマホを出しQRを読み込む。すると日葵のLINEが浮かび上がり、ひらがなでひまりとある。アイコンはなにかのくまのぬいぐるみでオレンジ色のリボンをしている。背景は日葵が風船を持って笑っている振り向きざまの姿だった。

僕はニヤつきがとまらなかった。

すると日葵は

「じゃあまたね!」

「うん、気をつけて!」

と手を振り見送った。

日葵の家はここから近いらしく、最初は僕が見送ろうか?と言ったが、

「徒歩3分で着くから大丈夫だよ!」

と笑いながら言っていた。

徒歩3分はすごいなと僕も笑ってしまった。日葵の背中が小さくなるにつれ夕焼けがとても綺麗でなぜか少し泣きたくなるくらいだった。


夜に部活の連絡が入り、日葵に出かける日をLINEするとすぐに返事がポロンときてOKという犬のスタンプが来た。すると日葵は

「どこに出かけるの?」

と連絡が入り、僕は

「秘密。楽しみにしてて。服装はなんでもいいからね。当日10時に僕が車で迎えに行くから家の前で待ってて。」

と言った。僕は日葵を隣町の海が見え、花が綺麗に咲くところに連れて行くつもりだ。

僕は日葵と出かけることをモチベにし、次の日部活で無双したのはいうまでない。

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