第5話

日葵side

「おはよ。ひーちゃん」

と私を起こすかーくんの優しい声。私はまだ眠く布団を被る。するとかーくんは私を布団ごと包み込み

「寝坊するからさきにご飯食べて」

と言い私を床に座らせご飯食べさせる。昔からの長い付き合いでかーくんは私の扱いに慣れている。2人とも同じ大学に通うことになり、かーくんは私のお世話をよくしてくれる。

「ねぇ。かーくん今日は何日?」

とかーくんが洗ったフライパンを持ちながら

「ほら、あそこの日記みて。」

と指を指す。私はその日記を開いた。私のその日記を見て頭が冴えた。

そこには

私は1年前に交通事故に遭ってから新しい記憶を保持することができません。なので毎日このノートにあったことをすべて記録して下さい。

と書いてあった。

私は震えながら次々とノートをめくる。すると今年の6月の日記に

「雨に打たれていた男の子は線路の真ん中にいて私はその人を外れまでに連れてって抱きしめた」という大胆な私がいた。それからその人に会ったらしく名前は冨樫翔平というらしい。そして私はその翔平くんの家の花屋でバイトをしているらしい。バイトの場所ややることが記載されてる。絵に描いているけど少し可愛いなって思う。どんな人なんだろ……?私はぼーっとしていると

「ひーちゃん?大丈夫?」

とかーくんが声をかけてきて

「うん!大丈夫!」

と言った。

今日は大学で授業があるらしくて、私とかーくんは全部同じ授業を取っているので、かーくんに任せればいいということだ。先生も理解してくれているので私はただボーッと聞く。

お昼になってかーくんとご飯を食べかーくんは部活があるため私はかーくんの帰りを待つので食堂にいた。食堂で絵を描いたり、本を読んだり、日記を読み返していた。

すると私の使っている机を人差し指でコンコンと鳴らす人がいた。

見上げるとそこには絵でみた人がいた。

「日葵? なにしてるん?あ、僕冨樫翔平!」

「翔平くんだよね! 今本読んでたの!」

「言葉の代わりに勿忘草をっていう本か……

どんな話なん?」

「最初は主人公がおばあちゃんと事故に遭うところから始まって、女の子は戦争時代にタイムスリップしちゃうの……」

と他にも色々話をした。私こんな素敵な人と会えてるんだ……。幸せだな……。昨日の私ってどんな風に接してたのかな?どんな話したのかな?過去の私を知ることができない。私はそう考えると

「毎日違う日葵を見れて僕は幸せやねん。」

とニコッと笑った。それにとても温かい人だ。翔平くんの笑顔に私はつられて笑った。

なぜだろう。翔平くんの笑顔で見る景色が彩り豊かに見える。

「日葵が覚えてなくたってええ。だって僕が覚えてるけん……!」

今日会った人なのになぜだろう……すごく惹かれる。まだ愛とか恋とか分からないけどこの人の描く未来なら私がたとえ記憶喪失でも一緒にいたいと思った。

でもなんでこの人は私に対してこんなふうに優しくしてくれるのだろう?

私は聞きたかったが、聞く勇気がなく、違う話題にした。

翔平くんは私がした話全てに笑って聞いてくれた。

私この人のこと忘れたくない……。

忘れたくないよ……。

「忘れたくないよ……」

と私は心で思ったつもりが口に出していたらしく翔平くんは私の顔を伺った。

翔平くんは

「大丈夫。明日の日葵もきっと楽しませてみるけん。やから楽しみにして今日はおかえり。」

と私の頭を撫でて最寄りの駅まで送ってくれた。

「じゃあまたね。」

「おう。」

私は彼に背を向け家に戻った。家に帰るとまだかーくんがいなかったのでスマホを見るとかーくんから「遅くなるからどこかで外食しよう」という連絡が入っていた。私は日記に今日のことを書く。彼のことを覚えていない自分が憎く思えた。どんなに一緒にいても思い出を積み重ねることができない。私は日記を書き終わったあと余っている紙を見つけ、彼の似顔絵を描いた。なんで、なんで、なんで……。私絵描くの上手なはずなのに……。涙が滲んで上手く描けない。涙がぽたぽたと紙に落ち、書いている鉛筆で紙を引き裂いてしまった。

「うぅっ……」

私は引き裂いた紙を抱きながら泣き、その頃ちょうどかーくんが帰ってきた。

かーくんはなにも言わずただ泣く私をぎゅっと抱きしめた。

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