第15話 祝いの宴

その日、フィオナがやっと目覚めると太陽はとうに高く昇っていて、もう昼頃になっていた。

ここしばらくの疲れがあったのか、ぐっすりと眠り込んでしまい、絶対早起きするはずが寝過ごしてしまった!

今日がお兄さんといられる最後の日なのに!

そう思いながらフィオナは慌てて階段を降りて、彼の姿を探した。


「あ!よかったお兄さん」男の姿を見つけると、彼女は、ほっとして声をかけた。


「おはよう、フィー」男は穏やかな声で答えた。男はもう身支度を整えていて、すぐにでもここから旅立って行けそうな恰好をしていた。


「もう準備万端だね。早く起きてたの?今日は夜まではいてくれるよね?

宴は夕方から始まるし、ここ数日大変だったからもっとゆっくり眠っていて良かったのに」とフィーは話しかけたけれど、男は、ふっと少し笑うだけだった。


フィオナの家の庭には、もう村の人たちがやって来ていて、宴の準備を始めていた。

村の異変の原因が分かり、無事に解決されたことを祝おうと、皆で大鍋に料理を作ったり、儀式の踊りのための衣装を運び入れたり、楽器の演奏を試したりして賑わっていた。


宴は昼間の暑さが和らいでくる時間になると始まった。

この土地の貴重な木から作られた笛と太鼓の音の演奏が始まると、色とりどりの羽と革細工の衣装に、そしてこの土地の特徴でもある青い染料を使った化粧をして、焼き物のアクセサリーを身に付けた若い村人たちが、複雑なステップで飛び跳ねたり、円になったりして何時間も踊り続けた。

庭中に沢山の料理が並べられ、フィオナの父が用意した貴重な果物も並べられた。村人たちは男に感謝を伝えに来ては、食べ物や飲み物を勧めていった。


この砂地という過酷な環境の中で暮らす村人たちがこれだけの食事や酒を用意するのは大変だったろうに・・・男はそう思いながらも、次から次へと運び込まれる料理を礼を言いながら少しずつ口に入れた。

さすがに満腹になるわけにはいかないが、それだけあの異変で苦しんでいたということだろうから解決したことを一緒に祝いたい気持ちもあり、そして村人たちの喜びの表現を素直に受け入れることにも意味があることだと思ったからだった。

フィーも男の側に来て飲み物を渡したり、まだ食べていないものはあるかと料理を持って尋ねに来たりした。それから突然に踊りに参加したかと思うと、また男の元に来て果物を持ってきたりと上機嫌な様子で宴を楽しんでいた。


感謝の言葉と共に村人から何度も酒を勧められたが、男が断ると、なぜ酒を飲まないのかと、何度も執拗に飲ませようとされるので、願掛けで禁酒しているのだと答えておいた。

さすがにこういう場で理由わけもなく酒を飲まないと怪しまれるだろうからな・・・面倒なものだが別に酒に弱いわけではないが、まだやらねばならん事が残っているというのに、ここで浴びるように飲まされて酔いつぶれるわけにはいかないからな。

この土地特製の地酒の濃厚な匂いを嗅ぎながら、男は今回はその酒にありつけないのは仕方ないと諦めることことにした。

そして宴も最高潮に達した頃には、大人たちの殆どは相手の顔もはっきりと分からないほどに酩酊しているような有様だった。

フィオナは少し疲れて敷物の上に座り込んでいた。

まだ幼い彼女には本来許されていないことだが、こっそりと果実酒を少しばかり飲んでいた。

ふわふわした良い気分で宴を楽しむ村人の様子をぐるりと見まわしていると・・・

あれ? お兄さんがいない。もう部屋に戻ったのかな?

もしかしてもう出て行ってしまった?!

急に不安になったフィオナは立ち上がり、少しふらつく足で家の中に向かい、

声をかけてみたが、男からの返事はなかったのだった。





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