第14話 温かいスープ

二人が家に戻ると、フィオナの父親が遅い時間にも関わらずまだ起きて待っていた。

テーブルには温かいスープが用意されていて、一日動き回ってお腹が空いていた二人は「ありがとう」と言うとすぐに食べ始めた。

「今日は二人が大活躍だったと聞いたよ。きっとまだ食事もしていないだろうと思って、準備をしておいて良かった」


もぐもぐと口をひたすら動かしながらも、フィーは父親の話にうんうんと頷いた。


「それで、あなたが村の異変の原因を見つけてくれたとか。

これまで誰も謎を解けずに、どうしたらいいのか不安な気持ちでいたので本当に助かりました。あなたがこの地を訪れてくれたのは幸運でした」


「そうだよ、お兄さんを見つけた私に感謝してほしいくらいだよ」


「あの時、娘があなたを助けたつもりが、この村を救ってくれる人を招き入れていたなんて思いもよらなかった。」


「最初に見つけた時にお兄さんは特別だって言ったでしょ。

勿論命が危なかったのもあるけど、

この人は絶対に村に連れていかなくちゃって直感があったんだもの。

お兄さんが幸運をもたらしてくれたんだよ」


男はそんな二人の会話を静かに聞いていたが、幸運という言葉を聞いた時、少しだけ表情が変わった・・・?そんな風にフィオナは感じて、気のせいかな?

でもなんとなくそんな感じがしたような・・・。


あまり感情を表に出さない男と一緒に過ごすようになってまださほど経ってはいないが、一日の殆どを共に過ごし、村の中で異変の原因を調べるために一緒に行動しているうちに、彼の心の変化を漠然としたものではあるけれど感じられるような気がしてきていた。


もっと長く一緒に居たら、きっと彼のちょっとした癖や、表情の変化をもっと感じ取れるようになるんだろうにな・・・フィオナは、もうそれができないだろうということを思うと少し寂しい気持ちになった。


二人とも食事を終えると再び父親が話し始めた。

「明日だがね。村の皆が宴を開いて、あなたにお礼をしたいといっているんだが、明日まではこちらにいてくれるね」


「分かりました。明日まではお世話になることにします」


「お兄さん、今日は本当にお疲れさま。

もうこれからは何も心配しないでいいんだよね。

まだちょっと信じられない気持ちだけど、お兄さんのおかげだね。明日は宴の時間までゆっくり休んでね」


「フィーとお父さんが助けてくれたおかげで、今ここにいられるのだから、

こちらこそ感謝しているよ。フィーも疲れただろう。ゆっくり休みなさい」

フィオナは疲れてもう眠たそうな顔で、はーいと返事をしてすぐに自分のベッドへ向かった。


男はまだ眠るわけにはいかなかった。

まずは壺からだな。

あそこであれこれ壺を触って調べることで下手に被害を広げるようなことがあっては危険だと考え、男はあえて現地では早く危険を取り除くことを優先したが、やはり原因となるものを見極めておく方が安心だろうと壺を持ってきたのだった。


地下水脈から持ってきた壺を手に庭の井戸にやってくると、桶から水を壺に入れてみる。渇いた砂地の上に壺を置いておくとジワジワと水が染み出てくる。

壺の周囲の水の広範囲に毒性が感じられたのは、壺から水が染み出ていたことも原因だったようだ。やはりな・・・。


それにこの赤い模様・・・やはり禍々しいエネルギーを感じる。

多分、呪いに使われた物ではないか。

自分だったら迂闊に近寄りたくない、すぐにそう感じられるが、感知できない人達にとっては珍しい赤い模様にしか見えなかったのだろうか。

壺の口の所をわずかばかり石でこすり、素材に危険がないか確認してみたが、こちらはただの土のようだ。


毒性のある染料と、呪いの紋様のせいで毒が長期間持続して垂れ流されていた・・・

ということだろうか。

これを使っていた者に聞かねば本当のところは分からないが。

村人の症状からすると神経毒系のものらしかったが・・・祈祷師や呪術を行う者が使うとしたら、使いようによっては病気の症状の緩和に使うこともできるものかもしれん。自分が口にした時にもごくわずかだが舌にしびれの様なものが感じられたからな。調合や量によってきっと使い分けされるのだろう。

薬として使われている薬草や鉱石なども知識のないものが用いれば、毒になりかねない。

この村の人間が故意にこれを持ち込んでおいたわけではなさそうだから、それだけは救いかもしれん。

これから用心していけば同じようなことは起きることはないだろうから、村長にでもフィーから伝えてもらうことにしよう。


壺のことはこれでもういいだろう。

それよりも・・・。

男はやらなくていけないと思う大事なことがあった。

そのために再び彼は部屋へと戻りベッドの下に隠してあった籠に入った物を取り出して、再び庭へと向かった。


空には綺麗な星が煌めいて、月も満月になろうかというころ・・・

これだけ明るいならば、夜中の作業にはちょうどいい。

疲れを感じる頭と体に月光を浴びながら、作業を始めた男だったが、覚悟はしていたもののやはりこれは時間がかかりそうだな・・・と少しうんざりして砂地に座り込んだのだった。





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