第13話 骨董屋

フィーは急いで骨董屋に向かった。店の入り口から店主に声をかけるとすぐに返事があり、中へと迎え入れられた。もう大分夜も更けて店じまいを終えた店主はフィオナに温かいお茶を出してから彼女の向かいの椅子にドスンと腰かけた。


急いできたので喉が渇いていたフィオナは少しお茶を飲んでから、話を始めた。

「お聞きしたいんですが、あの壺はどこから持ってきたものなんですか?」


「あれはここからしばらく先の所の部族のものらしいんだが、直接その土地で買ったわけではなくて、流れの商人が売っていたものを買ったんだよ。

めったに手に入らない珍しい物だといわれて、村の皆で使ったら喜んでもらえると思ってね」


「今回の件は、あの壺が原因だったようなんです。

おじさんも骨董を扱ってるなら分かると思うけど、やはり出所や使い方がはっきりしないものって気を付けなくてはいけないでしょう?」


「そうだな・・・気を付けているつもりだったが、なんともあの模様の珍しさに惹かれて、どんなものかもよく調べずに買い取ってしまった。

冷静になって考えてみると、珍しいということはもしかしたら特別な使い方をしていたのかもしれないし・・・本当にうかつだった。

私のせいで村の人たちに被害が出てしまったのなら本当に申し訳ない。これからは絶対に気を付けるように肝に銘じることにするよ。

夜が明けたら、村の皆に詫びに回ってこよう」


「そうだね、そうした方がいいね。

村を出て仕事をすれば色んな商人に合うことになるから、お互い商売する相手には充分気を付けよう、おじさん」そう言うと、二人はお互い見つめあいながら深く頷きあったのだった。


フィオナは骨董屋の話からは思ったような情報は得られなくてがっかりしたが、これで村も落ち着くだろう・・・やっとホッとできそうだと思いながら骨董店の入口から外に出ると、そこには男が立っていた。


「お兄さん、こっちにも寄ってくれたの?」


「ああ、村の人に頼んでここまで送ってもらった。

大分夜も更けたことだし、一緒に帰ろうと思ってな」


「そうか、ありがとう。今、話を聞いてきたけど、残念ながら思うような話は聞けずじまいだったよ。あの壺は流れの商人から買ったものだったからはっきりしたことは分からないらしい」


「そうか・・・それなら仕方ない」


「役に立てなくてごめんね」そう言って顔を曇らせる彼女に、

「いや、フィーはよくやってくれた。気にするな」と男は答えた。


「それにしても今日は色んなことがあって、すごい一日だったよ。

お兄さんの力のこともそうだし、あの壺のことも分からないことが多いしね」


「あの壺は模様の形に沿って、何かしらのエネルギーを感じられたから、

もしかしたらあの模様に使われた染料に薬のような・・・毒にもなるようなものが含まれていた可能性もあるな。

例えば、祈祷師が呪術や祭礼などの儀式を行う時に使う者で、特別な意識状態に入るのに秘密の薬が使われているとか。

あの模様自体にもエネルギーがあるように感じたから、何かしらの呪いの意味があるのやもしれん。

毒がしばらくの間、微量とはいえ消えることなく持続していたのは、呪術をかけた可能性もあるかもしれない。

どこの土地の物なのか分かれば調べようもあるが、私が知らない行ったことのない場所らしい。あの模様も、こういった不調が起きる毒の事例も見たことがない」


「うーん・・・お兄さんの考えてること、意外と当たってるかもしれないね。

普段使うような物じゃなかったのかも。

確かめようがないのが惜しいとこだけど、これから私も仕事で旅をしているうちにあの壺に出会うこともあるかもしれないから、確かめられたらいいな」


「いや、もし呪術を使うような人間の関わる物ならば、むやみに関わらない方がいい。そういうものとは距離を置きなさい。危険はあらかじめ避けるに越したことはない。フィーは異民族や異国の土地に出入りするのだから、それは必ず守ることだ」

普段は必要な事しか話さない男の強い口調にフィオナは少し驚いたが、言われたことはもっともだと思い、素直に、「はい、お兄さん」とだけ答えた。


「それにしても、お兄さんが壺に向けて描いていたのって、なんていうか・・・

何かのマークのような、文字の様な・・・?

ん~と分かったのは月みたいな・・・」


「言うな。もうそこまでにしておきなさい」

男はフィーが途中まで言いかけた言葉を止めた。

ビクッと驚いたフィオナに、男は続けて言った。


「力を発する物はどんなものにも意味があるんだ。

だから気軽に口にしたり話すと危険だ。能力者ですら気を付けて扱うものだから。世の中知らない方がいいこともある」


「ごめんなさい、お兄さん。あれはとっても綺麗だったから、どんな意味があるのかつい知りたくなったんだ。知ろうとするのが危ないなんて思わなかった」


「それに、今はまだ外にいて誰かに聞かれないとも限らないし、ここで話すのは良くないからな」


「とにかくこれで一件落着かな。やっとほっとできるよ」


「ああ、水の汚染についてはもう問題ないだろう。

あとは壺を使って原因をもう少し探って・・・あと一日は世話になることになるが、

よろしく頼む」


「もちろんだよ。1日と言わずもうしばらくいたらいいよ。

きっと村の皆もお兄さんに感謝してるからお礼に宴でも開きたいって言うだろうし、

疲れも取ってほしいからね」


そう笑顔で言うフィーを見ながら、男はこれから始末しなくてはいけないことについてあれこれ考えを巡らせていたのだけれど、彼の普段もあまり感情が現れないような冷静な表情から、彼の思考を読み取ることは、きっとフィオナでなくてもできなくて当然だったと言えよう。


こういった時、感情が外に出にくいポーカーフェイスのできる人間で良かったと、男は内心思っていた。


時刻はもうすでに真夜中になろうとしていたが、柔らかな月に照らされながら、二人はゆっくりと帰途についたのだった。

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