第12話 吉報

フィオナが嬉しそうに駆け出して行ったのを見送ってから、男はさっき袋にしまった壺をまた取り出していた。

水から離したのでもう水を汚染させる心配はないが、この壺のどこに毒があったのか気になって、壺にはあまり触れないようにしながらじっくりと調べていた。


どこから毒が出ていたのだろう?底にでも毒が溜まっていたのだろうか・・・?

しかし、村人は少ないとはいえ毎日水を汲みに来るだろうから、それならば最初の人間が一番被害を受けて、次第に効力が無くなっても良さそうだが。


何か証拠がないかと目視で壺の中を調べてみたが、染みなどが付いているわけでもなく、特におかしなところは感じられなかった。

やはり目で見て探そうとしても無駄か。それでわかるくらいなら村人が気が付いていてもいいはずだしな。

男はちょっと面倒くさそうな顔をしてから、また両手に白銀の力を灯してその壺へかざしてみた。

これは壺の底でも口でもなさそうだな・・・。

むしろ部分的なものではなくて全体からあの嫌な感じがしている。

渦を巻くような動きまで感じられるような・・・

この不気味な赤い文様に沿ってエネルギーが渦巻いているからか。

この塗料に毒が含まれているのがゆっくり漏れ出していたのかもしれないな。

はっきりはしないが、フィオナの家に戻ったら井戸の水を借りて確かめてみよう、そう考えた。


フィオナはその頃、今回の異変は壺で水が汚染されたことによるもので、もう殆ど問題がなくなったことを顔見知りの村人達に話して回っていた。

彼女はこの年齢から仕事をしているおかげか、村内でも顔見知りは多く、こういった時に頼りにすることができる知り合いに心当たりがあり、そのつながりを頼れば明日の昼ころまでには村中に、この吉報が届くだろうと思った。


この吉報に村人たちは皆喜び、興奮していたが、同時にどうやって解決したのかを知りたがる者もいて、あの白銀のお兄さんの話をしないで済ませるのはひと苦労だった。

結局のところ壺が原因だったわけだから、まあそこだけ切り取って上手く話したので、なんとかごまかせたような気がするけど・・・。あの白銀の力を間近で目にしてしまったら、つい誰かに話してしまいたい衝動に駆られてしまうのも仕方ないというものだ。


やっと、これで半分くらいの家には伝わったかな?

できるなら今すぐに村の全員に伝えて、皆に安心してほしいんだけどね。

本心では彼女はそう思ったけれど。

手助けしてもらっているとはいえ、さすがにすぐに全員にというわけにはいかないから。

できることを今するしかないよね。

そう思い、また次の知り合いの所へ向かう前に気合いを入れ直そうと、息を思い切り吸い込み大きく一息ついたところでポンと肩に触れる手を感じた。


「フィー、疲れたか?」

声に振り返ると男が立っていた。


「ああ、お兄さんか。来てくれたの?あのまま家に帰ってよかったのに。

もうちょっとで終わるよ。あとは二人位に頼めば村全体に伝わると思う」


「そうか。では私が代わりに行って来よう。名前と場所を教えてくれ」


「大丈夫だよ。あと少しだから」


「いや、いいんだ。フィーからの伝言だといえば問題ないだろう。

私も集会所で顔を売ったしな。以前よりは怪しまれないで済むだろう。

それよりも、フィーは壺のことについて聞いてきてくれないか」


「そうだね。壺のことは調べておかないと。またこんなことがあったら絶対嫌だから」


「ああ。もう少しだけ頑張ってくれ」

男はそう言って、フィーの背中をぽんぽんと優しく励ますように触れたのだった。





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