第11話 白銀の力

壺が毒の発生源だと分かったあと、男はすぐにその赤い紋様の入った壺を、フィオナは持ってきた布袋の中にしまい込んだ。

それから壺について骨董店の店主に情報を聞いてきて欲しいとフィオナに頼んだ。

そう言われたフィオナは「でも、水が汚染されてるのに、このままじゃ・・・」と不安そうな顔をして男の方を見つめた。


「大丈夫だ、私が対処しておく」


「でも・・・」


「心配か? そうか。分かった。ではもうしばらく私と一緒にいたらいい」

しばらく静かにしてくれ、と男は頼んでから、姿勢を正し深呼吸を一つすると、次第に出会った時に見かけたような柔らかな白銀の光が、男の体の周囲に静かに優しく広がっていくのが見えた。


やっぱりとっても綺麗な光だわ・・・。フィオナは再び出会えたその光にうっとりとしてしまった。

・・・私ったらこんな状況なのに、見とれてぼーっとしてしまうなんて・・・。


光が男の体を包み込むように広がっていくと、彼は最初に両手の掌を毒で汚染されているとみられる場所へ向けてかざした。

すると両手の掌の周りはポウッと光り、エネルギーが増幅されたかのように輝いた。

それから左手の指先で図式か文字なのかを描くように動かすと、最後は両掌を今度は何かを確かめるかのようにゆっくりとしばらくの間かざしていた。


その綺麗な白銀の光と、男の無駄のない美しい仕草に見とれて、ずっとこの様子を見ていたいと思う一方で、どんなことをしているのか、どんな意味があるのかを男に聞いてみたくて仕方ない気持ちになるフィオナだったが、邪魔だけはしてはいけないだろうと必死に声をかけるのを我慢していた。


「お兄さん、もう話してもいい?」


「あと少しだけ待ってくれ」

男は今度は流れていく水の中に手をすっと浸し、濡れたままの指先をぺろりと舐めた。

「ちょっと!大丈夫なの?!」

「ああ、これでもうほぼ無毒になった。」


「お水はもう使っても大丈夫になの?」


「まだ数日は念のために上流から水と使うように村の人に伝えてくれ。

今の術式でほとんど健康には影響が出ないレベルまでにはなっているが、

安全の為にそうしたほうがいい」


「お兄さんのあの白銀の力って毒を消すことができるんだね。すごい能力じゃない!」


「いや、残念ながら、正確にはエネルギーを調節する能力といったところだ。

原因だった壺を取り除いて、汚染された水の毒を限りなく弱いレベルに調節したが、ゼロではない。まだ数日は用心してほしいといったのはそういう訳だ」


「そうなんだね。でもすごいよ!あの祈祷師のおじいさんだってこれが原因だって気が付かなかったんだから。あのおじいさんもきっと驚くよ」


男は何も言わず、少し不機嫌そうな顔をしていた。

そして「最後まで自分で確認できて納得できたか」と言うと、フィーは落ち着いた表情で、うんと頷いた。


(やはりこの子はしっかりしているな。自分で見たものが一番確かだと、もう経験から分かっているんだ、男はまたフィーの賢さを改めて知った気がした)


「では早く骨董屋に壺のことを聞いて、それから村人にも壺が原因だったこと、それからしばらくの間は上流の水を使うように知らせてくれ。

それから私の能力のことはあまり話さないように頼む。能力があると色々面倒な事も起きやすいのでな」


「分かったよ。お兄さん本当にありがとう。疲れたでしょう?

このまま家に戻ってね。あとで家で会おうね。じゃあ、私行ってくるね」

フィーはそう言って走り出した。

それにしても村のおかしな事件の原因が分かり、お兄さんの力のおかげで解決できたっていうのになぜそんな風になんだか機嫌が悪そうな顔をしてるんだろう?とフィーは不思議でたまらなかった。


それでも村人たちに良い報せができること、これからは皆があの異変のことを心配せずに暮らせることが嬉しくて、もうすっかり暗くなった夜道の中を笑顔で駆けて行ったのでした。

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