第7話 早朝の食卓と薬湯
今日は朝早くから出かけると言われていたので、フィーはいつもより数時間早く目覚め、顔を洗いに外へ出ようとすると、薬草の香りが漂ってきた。
外に出てみると男がもう起きていて、昨日祈祷師のおじいさんからもらってきた煎じ薬を煮詰めているらしくその香りが流れてきたようだ。
「お兄さん、おはよう!昨日の薬を煮てたんだね。それにしても大分早起きだね」
「おはよう、フィー。村を調べるのに一日を使っても、あの原因を探るのに足りるかどうかと思ったからな。私は外から来た人間だから気が付かないことや分からないことも多いだろうし、時間は沢山あった方がいい」
「今日は私に任せてね。どこでも案内するから言ってね」
「ああ、頼む」
男は出来上がったらしい薬湯を小さな器に流し入れて、テーブルまで運んで行った。
「この煎じ薬の香り、フィーは嗅いだことがあるか?」
「どうだろう?知ってる香りと似てるところもあるけど、嗅いだことのない辛い感じの香りもするかな」
「そうか。私も多少は薬草の知識はないわけではないのだが、どの地域の物でも知っているわけではないのでな」
「お兄さんはこれまでも旅をしてきたような雰囲気があるもんね。
きっと色々物知りなんだろうな。
だからあの祈祷師のおじいさんにもお兄さんなら、この村のあのおかしな事件をきっと解決できるって話したんだよ」
「こそこそと二人でなにか喋っていると思ったらそんな話をしていたのか。
そんな風に簡単に過大な期待をされても・・・な。困ったものだ。
解決できる保証が必ずしもあるわけではないんだぞ。それに・・・」と言って男はそのまま黙ってしまった。
「だってお兄さんのこの身体の数日の回復ぶりといい、村の異変を感じる力があるのを知ったらさ、きっと解決してくれるって思って、あの祈祷師のおじいさんにも知らせたくなったんだ。今まで村のために一生懸命にやってくれてるからね」
男はフィーの言葉をただ静かに聞いていたが、その表情は少し冷たいくらいで、なにかしら言いたげでもあった。
朝食はいつものように、薄い小麦粉の主食と野菜が入ったスープで、
昨日もよく歩いたのでお腹が空いていたフィーはもりもりと食べ始めたが、途中であることに気が付いた。
「お兄さん!薬ちゃんと飲まなくちゃ!食前に飲むんじゃないの?」
「ああこれか。これは成分的に食後に飲んだ方がいいと言われたから気にするな」
「そうなの?そういう薬もあるんだね。知らなかったな。じゃあ準備してくるからお先に」そういってフィーは自分の部屋へと行ってしまった。
残された男は、薬湯を少しだけ口に含み、舌で味を確かめるようにしてから
一口だけ飲んでみた。そしてまずそうに舌先を出した。
それからふう~っと一息だけではあったが深いため息をついたのだった。
すぐに支度を終えたフィーは荷物の袋になにやら面白そうなものをたくさん詰めて
きたようで、大きな荷物は細身の彼女の体からボコッと大きく出っ張っていたので面白く感じられるほどだった。
「さて、お兄さん出かけようか」
「ああ、行こう」(あの大きな袋の中に役に立つものが入っていればいいが。
一体何を詰めてきたのやら・・・。)
そう男は思いながら返事をした。
この一日は村の内情を知ることになるのだろうな、と男は少し気が重い気もしたが、問題が解決されるのならば無駄にはなるまいと気を取り直してフィーと共に家を後にした。
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