第5話 祈祷師
日もそろそろ暮れようする頃、二人はフィオナの家へ帰ろうとしていた。
その帰り道の途中にフィオナはハッと何か思い出したような表情をしたかと思うと
「そうだ、お兄さんが早くしっかり回復するようにあそこに寄って行こう」と男に声をかけた。
「村の祈祷師が薬を作っているんだけど、あれはよく効くんだ。ここからそう遠くないから寄ってから家に帰ろう」
「薬?いや、私はもう大分調子も良くなったから・・・」そう断ろうとする男の言葉も最後まで聞かないうちにフィオナは目的地に向かってどんどんと先に歩いて行った。
この子には何を言っても、聞いてくれない時には無駄のようだ・・・
男は諦めて大人しく後をついて行くしかなかった。
しばらく歩くと不思議な細工がたくさん吊り下げられている家に辿り着いた。
(儀式や呪いに使うものだろうか、それとも結界とか・・・。)
男は珍しいその細工を見ていると、
「ここだよ」フィオナは玄関の垂れ幕の様なものを静かに払い、躊躇することなくスッと身体をその家の中に入り込ませていった。
男も後から用心しながら中に入っていくと、思ったよりも広いその家の中には、
老人が座っていた。
その老人は、この地域特有だと思われる褐色の肌をしていた。そしてその肌はとても乾燥していて、年齢と共に刻まれたと思われる深い皺には似合わないようなギラギラした野性味すら感じられる瞳を持っていた。
「このお兄さんに体力を回復できる薬を頼みたいんだけど」
フィオナがそう薬の注文をすると
「そうかい、じゃあこちらに」と老人は自分の隣に来るように
男に手招きをした。
「さっき話してたけど、村で異変が起きた時にもね、この祈祷師のおじいさんのおかげで村の人の体調も良くなったんだよ」フィオナは得意そうにそう話した。
フィーのこの様子からすると、この祈祷師は村の中では一目置かれる存在なのだろうな。
その話の最中にも祈祷師は男の掌や頭の辺りをのぞき込んだり、触ったりしながら何かを診ているようだった。
なんだろう?この感じは・・・
男は祈祷師に触られると何とも言えない気分になった。
この男・・・どうも赤いエネルギーに包まれているように見える。
治癒や回復のための能力をもっているらしいことは、なんとなく感じられるのだが、それ以外にもなにかしら違和感があるのはなんだろう。
フィオナがせっかく気遣ってここに連れてきてくれたのだから、静かに薬ができるまで待っているべきだと男は我慢していたが、気にしないようにしてもやはりさっきから感じている違和感は消えることはなかった。
祈祷師は部屋に幾つも置いてある籠の中から薬草を選んで男の前に戻ってくると、
「さて、体調に合う薬草をいくつか選んだから、湯を沸かしてこれを煎じて飲むように。薬が無くなるまで必ず最後まで飲むようにな」と言いながら、袋に薬を詰め、
フィオナが代金を払うと薬を手渡した。
「おじいさん助かったよ」フィオナは笑顔でそう言うと、
部屋の中でまだぼんやりしている男の腕を引いて外に連れ出したのだった。
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