第3話 ガラムト村
男はロバに揺られてふらつきそうな身体をなんとか保ちながら、この親切な子供と一緒に砂地を渡り、半時しないうちに村の入口までやってきた。
「着いたよ。お兄さん」助けてくれた子供が元気な声でそう言った。
こんな砂地の中にあるのだから、きっと豊かな村ではないだろう・・・。
男はそんな風に想像していたが、村の様子を見ていくうちに自分の考えが間違っていることに気が付いた。
素朴ではあるが思っていたよりも貧しい村といった様子ではなく、村に市が経ち露店がいくつか並んでいるし、店には活気があった。
しかし、彼はすぐにそこにいる人々の中に違和感を感じていた。
(なんだ・・・どうも様子がおかしいようだ。)
助けてくれた子供に理由を問いたくなったが、せっかく好意でここまで連れてきてもらったことを考えると村人について余計なことは口にはしない方がいいだろう
と考えて、黙っておくことにした。
「村に宿が無いわけじゃないけど、お兄さんの今の状態じゃ宿に行くのも心配だし、うちに泊まったらいいよ」そう言ってその子は、あそこがうちだよ!と自分の家を指さした。そして自分の家に泊まるように勧めた。
「そうか、助かる。では、お願いしよう」
この村の家はどれも動物の皮を木で支えてテントの様に張った簡単な作りのもので、
日中の強い日差しを防ぐのに良い構造になっていた。
家の中に入るとすぐにスープと小麦粉で作られた主食が出され、食べるようにと子供は声をかけてきた。
「世話になるな・・・」
先ほどの乾燥肉ではさすがに腹は満たされていなかったので、男はすぐにスープを飲み始めた。
子供はこちらを眺めてすぐにでも何か問いたげな瞳で見つめていたが、男が食事を終えるまではなんとか質問するのを我慢してたようだった。
「ふう。よく食べた。本当に助かった」男は礼を言うと、子供の方へと体を向き直した。
「そういえば名前も聞いていなかったな。名前を教えてくれるか?」
「フィオナだよ」
(ん?フィオナ?)
「女の子だったのか・・・すまん、気が付かなかった」
よく顔を見てみると、室内での彼女は外で被っていたフードを外し、
髪はかなり短いものの、ふっくらとした頬をして健康そうな優しい顔立ちをしており最初に女だと言われればそうだと分かる可愛い顔立ちをしていた。
「そりゃね、外では女だと分からないように振る舞いなさいと言われてるからね。
着てるものも男物だし、父さんについていって仕事の旅が多いから髪も短くしてるんだ。名前も外ではフィーって愛称で呼ばれてるよ。
初めて会った相手じゃ女って分からなくてもおかしくないよ」
「そうか、旅をするならその方が安全だからな」
「この村は砂だらけの土地で、作物は限定された場所で少しだけしか取れないんだけど、幸い地面の少し深いところに良い土があってね。
その土が壺や皿なんかを作るのに良くて、作ったものを外で売ってくるんだよ。
色付けもここ特有の青い石があってそれでいい色をつけられるんだ。
それが綺麗だからって高い値で売れる。
だから村はこんな砂地のわりには豊かではないけれど、暮らしていくにはなんとかなってるというわけ」
「なるほどな。村の入り口で置いてあった壺や皿もこの土地特有の物だったのか」
「そうだよ、時々ここまで珍しい物を求めて買い付けにくる商人もいるからね」
(ふむ、そういうわけで砂地の土地だというのに、ここでは収穫が難しそうな食べ物や食料も色々と店に並んでいたわけか)
「それで、お兄さんの名前はなんていうの?」
「私か?・・・実は名前が分からないので、君の好きに呼んで構わない」
「名前覚えてないの!もしかして暑さと脱水で頭に問題がおきたとか?
とにかくしばらく寝た方がいいよ」
男はフィオナにすぐに寝床に連れていかれて、
「ぐっすり寝て、起きたらまた食事を用意するからね」と言われたのだった。
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