第2話 小さな救世主

「ちょっとお兄さん!寝ちゃだめだよ!」

空腹と疲労による眠気でぼんやりした頭に誰かの声が響く。

瞼を開けようとするが、もうろくに気力も残っていないので、

ただその声を聞こうとするのが精一杯だった。


「ねえ、ちょっと!ほんとに危ないから起きて!」

それでも男はまだ目を覚ます気配はなかった。

「み、水・・・」と乾いた声で呟いた。


すると、心地よい湿り気が唇を濡らし、ゆっくりと口内に水が入ってきた。

(ああ、うまい・・・)

声をかけた子供は革袋を男の口元へと運んでその中の水を飲ませてやった。


男は水を飲んで少し正気を取り戻したのか、うっすら目を開けると、

「何か食べ物を・・・」と、また呟くと、今度は口元に何か固い物が押し込まれた。

う・・ん・・・塩辛い・・・乾き切ったその食べ物は、せっかく潤い始めた口の中の水分を奪っていく気がしたが、この空腹状態では仕方がない。

しばらく噛みしめているとそれが干し肉だとわかった。

携帯食を分けてくれたらしい。

干し肉は塩味が強かったが、ここしばらく水も節約しながら過ごし、ほぼ1日のあいだ強い日差しの中を歩き続けて体液を失っていたからか、その塩辛さも不思議に思うほどには不快に感じなかった。


「ああ、良かった。お兄さん、こんな所にいたら行き倒れになっちゃうよ」

男は返事をしようと思うがまだ頭がはっきりしないので、どう答えようかと考えたが、なかなか考えがまとまらず、ぼんやりとした目で見つめ返すことしかできなかった。


「お兄さん旅の人?」

男は話すのも億劫なくらいだったのでただ頷く動作で返事をした。


「旅をするにも今の様子じゃ確実に行き倒れちゃうよ。

ここから少しの所にうちの村があるから、一緒においでよ。

しばらく身体を休めなくちゃだめだよ。」


子供の問いかけに男はまた頷き、何とか起き上がろうとするが

ふらついてしまった。

子供は男を脇から支えるようにして、側に待たせていたロバの上に彼を座らせた。

「大丈夫?座ってられるかな?」

そう少し不安そうに言ってロバを走らせたのだった。


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