貴族は宝の価値を知っている
第37話 朝の訓練
「
エリンの発声と同時、私の足元から水の触手が一本出現。私の顔めがけて質量が襲い掛かる。
魔力感知で出現の場所を事前に感じ取っていた私は、すぐにバックステップでその攻撃を躱した。
その間も触手の動きから目は逸らさない。
触手は私の顔があった辺りで丸くなると、その場に漂った。
「うっわ……」
思わずそんな声が口から洩れる。
おそらく、触手は私の顔を叩くのではなく飲み込もうとしたのだろう。それで窒息を狙う算段だった。
「なんで避けるの!」
「避けるに――決まってるわ!」
私に向かって水杖を差し向けて怒るエリンに対してこちらも薔杖を向ける。
「
私の足元から二本の茨が出現し、その勢いのままエリンに迫る。
しかし、茨がエリンに届くことは無かった。
先ほどからその場に留まっていた水球が大きく膨れ上がり、エリンの身体を飲み込めるくらいに成長。
まっすぐ進む茨は水球に突入し、勢いを殺されてしまった。
しかし、そこで隙を晒すほど私も馬鹿ではない。薔杖を持たない左手を使って件の茨を操作すべく、左手に魔力を集中。
「よっ」
気の抜けるエリンの声。
しかし、私はすぐに身構える。
魔力操作に長けたエリンのことだ。戦闘中に思わず声を出してしまう。つまり、よほど凝った魔力操作をしているということだろう。
――何が来る?
「っ!」
エリンを隠す水球が小さくなってきている。しかし、私は直後に感じた「狙いやすくなった」という考えを打ち消す。
水球に突っ込んだ茨を伝って水が迫ってきているのだ。
つまり、エリンは最初に発動したアクアを維持して水球を保つ。そして水球を維持したまま水を動かした。
アクアを別の形で維持するだけでも難しいが、維持と変形を同時に行うのはさらに困難だ。
一つの魔法で多様性を生み出すのは難しいし、消費魔力も大きい。
私もエリンのアクアと同じく、ソーンを使って茨を生み出して手のように操作することは可能だ。
しかし、その操作の多様さはエリンに遠く及ばない。
茨を刺突で使うにはソーンで生み出した茨を操作するより、
ソーンよりもランソーンの方が魔力消費は多いが、刺突では扱いやすい。
しかし、エリンはアクアで事足りる。一つの魔法、少ない消費魔力で多様性を生み出せる。
そこがエリンの強みであり、戦闘でのアドバンテージだ。
そして、駆け引きにもアドバンテージは手を伸ばす。
正直、相手が発動する魔法を事前に知っていれば何をするかはほとんど予想がつく。
つまり、魔法使い同士の戦いは魔法知識の差が勝敗を分けるカギになることが多い。
しかし、エリンは戦闘でアクアしか使わない。水を生み出し、多岐に渡る操作にバリエーションを付けて戦闘を作る。
発動する魔法で先の展開を読むことが出来ず、足元を掬うような攻撃をしてくることが少なくない。
そのような背景もあり、私がエリンに稽古をつけるという構造でありながら、いつも油断は出来ない。
「チッ!」
そして今回もそうだ。思わず舌打ちをしつつランソーンを解除。魔力の伝達が途切れた茨はその場で砂に変わった。
茨を伝う水は砂が落ちるのにつられて共に地面に落ちる。
「ソーン」
私はすぐさま魔法を発動。落ちた水は触手や水球と違って質量が小さい。伝ってくるときは脅威であったが、今は無視しても問題ない。
生み出した茨は四本。エリンの上、左右、背後を塞ぐように展開して攻撃を仕掛けた。
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