幕間 ふざけた笑みもさすがに控える
日差しが入らず、一日中暗い部屋の中。
至る所にメモや書類が乱雑と蔓延る部屋の中。
何となくカビ臭くて良くない気が溜まっており、一般的で理性的な人間なら決して居つきはしないだろうこの場所にて、女と男が相対していた。
「報告かい? 君なら私を介さずとも分かるだろう」
女、ことレジィは若干の辟易さを醸しながら言う。おまけに客人の前で大口を開けて菓子を食べる始末。
しかし、訪問者である男はレジィが菓子を飲み込むのを律儀に待ってから口を開いた。
「こういうのは形が大事なのだよ。これでお互いに仕事をした、ということが証明できる」
「……正直、突っ走るか踏みとどまるかは五分五分だったよ。個人的に言えば、突っ走ってくれた方が面白かったんだけどねぇ」
男の老獪な仕事観から出る言葉に対し、レジィはより面倒くさげに眉を寄せる。しかし、埒が明かないと思ったのかすぐに語ることにしたようだ。
対する男の反応はあまり良いものではなかった。侯爵位を持つレジィを前に隠さずため息をつく。
「それは報告ではなくて感想だろう。お前は研究者のくせに感情論で語りすぎだ。もう少し論文の時のように理路整然と語ってくれと思わずにはいられない」
「研究は趣味。これも趣味。報告は仕事」
実質、仕事は真面目にやらないと言い捨てつつ、レジィは一枚の紙きれを机に放る。男は一歩前に進みその紙切れを手に取った。
紙切れに目をやる男に対し、「書いてやったからとっとと帰ってそれを読んでくれるかい」言い、片手で出ていけとジェスチャー。
「……」
男は顔を上げるとレジィを一瞥。何も言わずに背を向ける。
「じゃあねぇ」
レジィの挨拶も無視して扉を開ける。冷たい態度とは反対に扉はゆっくり無音で閉めて姿を消した。
「冷たい男だよぉ」
レジィは閉まった扉を見てクツクツと小さく笑う。何がツボにはまったのかそのまましばらく笑い続け――
「さて」
突如、笑うのをやめる。
机の上に散らばる紙束から一枚のメモを取り出し、今度はニヤリと笑って言った。
「リゼ嬢だけじゃあ、もうそろそろ心もとないねぇ」
終章【貴族は宝の価値を知っている】 近日公開
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