第34話 蛙と蛇⑰
「……誰が話すか馬鹿」
エリンの言葉を否定するようにデカブツが口を挟む。
その声はしわがれており、ひどく不快感を醸すものだ。しかし、先ほどまでの勢いはなく、少し落ち着いているようでもある。
しかし、私たちを見る目からはその消えていない敵意を感じることが出来た。
「わがまま言わない! もう捕らわれの身なんだから」
エリンはそう言うと再び水杖でデカブツの頬を突く。「案外柔らかいのね」とこぼすので、案外柔らかいらしい。
「……チッ」
デカブツは不満気な様子を隠さず、舌打ちで抵抗の意を示す。しかし、その態度からはあまり強気な感じを受けない。
それもそのはず、デカブツ含めフロッガーの群れは茨の網で拘束されて身動きが取れなくなっているのだ。ついでにメメーも一緒に。
流れはこうだ。
エリンの指示でメメーがフロッガーの群れに突撃。
場が乱れている隙にエリンと私が大魔法の準備を行う。
私がデカブツの背後に
大波でフロッガーを流し、私の網にて受け止める。そして私が網を閉じ、即席の牢屋を作り上げた。
ちなみに、エリンの泡魔法はメメーにこちらを別のメメーの群れと勘違いさせる効果を狙ったものとのこと。
縄張り意識が強いメメーは別の群れを見ると襲い掛かる習性があるそうだ。
私は知らなかったが、エリンは館の蔵書に書いてあったことを覚えていたらしい。
「話して?」
エリンは笑顔のままデカブツに迫る。その笑顔はまぁ、無邪気なものだ。目の前に与えられたおもちゃを存分に使いまくるつもりの笑顔。
自分の欲に際限がなく、湯水のごとく湧いて出る思いに妥協をすることは無い。
「……」
しかし、デカブツは黙ったままだ。他のフロッガーやメメーと一緒くたになりながらもリーダー個体としての空気を崩さない。
そこには一種の意地のようなものが感じられた。
……まぁ、一魔物の意地などそこらの埃よりも価値は低いと思うけど。
「話さなければ、ここで凄惨な死に方をすることになるわ」
埒が明かないと感じた私はエリンに助け舟を出すことにする。
こいつが話さなければエリンが満足しない。つまり、私が早く帰れないということだ。
「黙れ女。殺したければ殺せばいい――ほら、ここだここ」
デカブツは私を睨むと、動きの制限された網の中で無理矢理体を動かして顔をあげる。そして首を示して見せた。
その行為に私はつい、笑いをこぼしてしまう。
「……ふふ。馬鹿はどちらかしら? 話さなければ皆殺し、話してもお前は殺す。そういうことよ」
「……」
デカブツと私の視線が交錯する。
まぁ、実際は話さなくとも皆殺しはしない。魔物も独自の生態系を築いているのだ。むやみに人間が群れを滅ぼしてしまえば、どこかで弊害が現れることになるだろう。
嘘も使いよう、ということだ。特に魔物相手であれば騙しても罪にはならない。得しかないのである。
「……分かった」
中々の間を開けたのち、デカブツは小さくつぶやいた。
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