第33話 蛙と蛇⑯

 牧場主の話をまとめることにする。


 今から一か月ほど前、デカブツ率いるフロッガーの群れが突如牧場にやってきた。


 デカブツは娘を人質にして牧場主夫妻を脅し、支配権を奪い取ることに成功。


 牧場内にある人口湖を住処にして、牧場の動物たちを献上させていた。


 エリンがけしかけさせたメメーはその被害をギリギリ免れていた生き残りらしい。


 稼ぎ頭のメメーまでもが消えてしまったら牧場の経営が出来なくなってしまう。牧場が潰れれば牧場建設の返済が滞り土地は没収。


 その跡地は都の所有になり、都の調査員がやってきて群れの移住がバレてしまうだろう――といったことを説明し、どうにかメメーを死守。


 つまり、交換条件を提示して問題を先延ばしにしたわけだ。


 しかし、デカブツはメメーの代わりに新しい条件を出してきた。


 ――メメーは見逃してやる。その代わり、金を集めてこい。

 

 それからフロッガーたちは牧場主に謎の肉――つまりマッド・スネークの肉を持ってくるようになった。それを焼いて都で売りさばいて金を献上しろ、ということだ。

 

 先ほどは私が刺激した所為で興奮していたが、冷静時は予想以上に頭が切れるらしい。


 一体手に入れたお金で何をしようとしていたのか。エリンの気まぐれが想像以上の火種を捉えるとは、流石に想像していなかった。


 そして何より、

 

「ひっ……」

 目の前で事の次第を語った牧場主に一瞥をくれてやる。飛び切りの鋭い視線で、だ。


「情報提供、感謝するわ。けど、報酬の話は無しね」


「なっ……そ、それはどうい……ひぃぃッ」


「黙ってくれる? あなたは罪人として捕らえられることになるわ――法については私も詳しくは知らないけれど、おそらく反逆罪ね」


 牧場主は何を言われているのかわからない、という風に困惑で表情を強張らせ、膝をついた。


 当初、私は牧場主がデカブツに脅されており、実質奴隷として扱われていると予想していた。


 しかし、ふたを開けてみると苦肉の策だったとはいえ、フロッガーたちに協力してお金を稼いでいた。


 そのお金は都に危険が及ぶ原因になり得たのだ。


 牧場を守るため、都を危機にさらしたと言ってもいい。


 当初はエリンの気まぐれのままで終わるつもりだったが、これは侯爵に通すべき事案だろう。


「エリン、まずは兵務に――」


「まぁまぁ! リゼ、とりあえず落ち着いて?」

 エリンは私の言葉を遮って言う。


「ルーローさんの処遇の前にもっと大事なことがあるよ――ねぇ、デカブツ?」

 エリンは足元に放り出していた水杖を拾うと、続けてに捕らえられたデカブツの頬を勢いよく突いた。


「デカブツ、良いネーミングセンスだね。リゼに加点」

 続けて「こいつにも話を聞こうか」と言って笑う。

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