第24話 蛙と蛇⑦

アクア水の手!」


ソーンッ茨の手


 私とエリンの魔法がほぼ同時に発動。展開した触手状の水はフロッガーの大群を押し戻し、茨が凶器となってフロッガーに襲い掛かる。


 大挙として押し寄せるフロッガーはさながら轟音をあげて迫りくる滝のようであり、私たちを飲み込まんとしていた。


 視界の先には高笑いをあげてこちらを睥睨するデカブツ。


 正直に言って、キレさせるという私の作戦は。キレてはいるが方向性が狙っていたのと違う。


 私としてはデカブツ本人が暴走して襲ってくる、という展開を望んでいた。しかし、現実は仲間を呼んでの高みの見物。


 本当にムカつくことだが、分が悪い。


 しかし、私たちはその攻勢を前にして危なげなく戦線を維持することが出来ていた。


 それはひとえにフロッガーの種族としての個体値のおかげである。


 デカブツの魔法によって指揮されているフロッガーだが、なにも強化されたわけではない。


 いくら大量に襲ってこようとも、命の危機に陥るような事態にはならない。


「チィ!」

 思わず出た舌打ち。後ろで牧場主の小さな悲鳴が上がったが、無視を決め込む。


 そう、だ。


 危なげなく戦線を維持している。それイコール「勝てる」にはつながらない。


 今強いられているのはいわば籠城戦であり、私とエリンの魔力が尽きればそれすなわち敗北である。


「リゼ! 一匹そっち行った!」

 

 エリンの緊迫した声に振り向けば、エリンが受け持っている一面から一匹、こちらに迫ってくるのが見えた。


 私が受け持つ三面に茨を展開しつつ、私と牧場主を囲ませているうちの一本を使って襲い掛かるフロッガーを串刺しにする。


 そのままの勢いで放り投げてやれば即席の投石代わりだ。また何匹かを巻き添えにして石代わりが散る。


「ごめん!」

 その一部始終を見届けたエリンが言った。私は思わず脊髄反射で言葉を返す。


「主人に謝らせるのもいい気分だわ! でも、労ってくれないと割に合わないわよこれはぁ!」


「ありがとう!」


「……」


 この状況を打破するにはどうすれば……


 私の叫びに素直に応えたエリンのお礼を軽く無視して、今後の展開について思考を巡らせる。


 勝つためには今陥っている事態をしっかりと把握しなければならない。


 ――膠着の原因はおそらく二つ。


 なお、キレさせたのが第一のミスであることは承知して反省した上で、無視。今それを考えるのは思考の邪魔になる。


 いくら考えたってこの状況は変わらないので、無駄なことにリソースは割かない。


 ――一つは足手まとい牧場主と少女の存在。


 私は牧場主を、エリンは少女を自身の魔法の最大効果範囲内に招き入れながら戦っている。


 守りながらの戦いというのは想像以上に難しい。守る対象を含めれば、実質、自身の当たり範囲が二倍になったと等しいのだ。


 その状況で戦いを強いられる者の精神や魔力にかかる負担は無視できない。


 つまり、今の私たちはいつものように気軽に全力で戦うことができていない。


 そしてもう一つ。これが今一番ネックになっている部分だ。


 エリンの戦闘能力である。

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