第22話 蛙と蛇⑤
「私たちは――」
「魔物に名乗る名なんてものはないわ」
エリンの言葉をさえぎって言い放つ。デカブツは私の態度が気に食わなかったのか、わずかに眉をひそめた。
実際のところ、フロッガーには人間と同じような眉は存在しない。しかし、動作として眉をひそめるような顔の筋肉の変化があったということ。
つくづく人間っぽい魔物だ。隠さず言えば気持ちが悪い。
「言うじゃねえか、女。生意気で教育し甲斐がありそうではあるが……」
蛙らしく長い舌を使っての舌なめずり。私の身体に不躾な視線が向けられているのを感じる。
「教育?」
「あぁ、教育だ。楽しい楽しい時間だぞ」
枯れた声に少しぬらっとした感触が加わる。
本当に人間臭いわね、こいつ。まるで悪趣味のオジサン貴族みたいな雰囲気だ。
「魔物に教わることなんて何もないわ。あんたらは素材。そう、素材よ。蛙は嫌いだけど、お肉になってくれれば好きね」
「……」
何よ、エリン。その「信じられない……」みたいな目は。あんた屋台で蛇肉食ったでしょう。蛙と蛇で何が違うのよ。
「……本当に生意気だな。貴様ら人間はいつも驕り高ぶっていて、虫唾が走るぞ」
一段と冷えたデカブツの声。しかし、私は気にせず言葉を投げかける。
「驕り? 違うわ。魔物に対して驕りや尊敬なんて感情、そもそも持つ必要がないじゃない」
「リゼ! なんでわざわざ刺激するようなこ――」
「静かにして。今は私に従ってなさいな」
耐え切れなくなったのか再び口を開いたエリンの言葉を遮る。続けて、不服そうなエリンに一瞥。
そこでエリンがようやく頷いてくれた。
「おいおい、仲間割れか? いくら顔が良くてもその性格じゃあ、男はできないな」
デカブツの視線は顔ではなく私の身体に向いたまま。本能を隠そうとしないのは魔物らしい。
「余計なお世話よ」
心底見下す気持ちを込めてデカブツを見てやれば、ふと「思いついたぞ」とデカブツが声をあげる。
「女、俺が貰ってやろうか。そんじょそこらの男どもより、俺の方が――」
ヒュンッ
私の【
「馬鹿言わないで。あんたと私とじゃ釣り合いが取れないわ」
眉をひそめ、口の端を非常識なほどに吊り上げて笑う。
ブシャッ
「……女ァ」
フロッガーを再度踏みつぶしたデカブツがそれだけ呟く。
よし、キレた。
「エリン、警戒して」
「わかった」
私を囲むように茨を展開。牧場主を茨の包囲に招き入れる。
「決めたぞ、俺は決めた。女、お前を殺す。周りの奴らも、容赦しない」
デカブツから魔力が漏れ出るのを感じ取り、私とエリンで顔を見合わせる。フロッガーは通常、魔法を使えないはず。
つまり、私たちが経験したことのない魔法が発動、予期しない事態に遭遇する可能性があるのだ。
しかし、エリンに慌てる様子はなかった。私もそうだ。
それが何故かというと、私たちは漏れ出る魔力の量から発動される魔法の規模を測ることができるからだ。
「っ……」
漏れ出た魔力が収縮、漠然と空気に拡散していたモノが形を成し始める。
「――ッ!!」
デカブツが大口を開けて叫ぶように背をのけぞらせた。
今、変異体フロッガーの魔法が発動する。
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