第21話 蛙と蛇➃

 リゼによって発動された魔法の餌食になった二匹のフロッガーが綺麗な弧を描いて空中を飛ぶ。


 突き刺さった茨が抜け、遠心力に任せて空を舞ったフロッガー。しかし、彼らは翼を持たない。いつまでも空にはいられない。


 重力に縛られ行き着く先は下。自由落下によって上がったスピードそのまま――


 バギバギバギィッ!!


 小屋の屋根は二匹を受け止めることが出来ずに損壊。大きな風穴を開ける。


「うおゎっ!?」


「なっ――チィッ、またあいつらか!?」


 突然の事態に動揺する者が二人。牧場主は素っ頓狂な声をあげてしゃがみ込み、巨大なフロッガーはイラつきを隠さないが敵について可能性を巡らせた。


 状況に翻弄されるがままの牧場主と比べて、巨大なフロッガーは幾分か落ち着いている。


 しかし、落ち着きによって生まれた余裕からなる警戒心を潜り抜け、敵の懐に潜り込む者がいた。


アクア水の手

 

 水の都セレジーの放浪令嬢、エリンワース・エレストその人である。




 二匹のフロッガーを空に放り投げ、落下の開始までを見届けた私は、エリンの後を追うために扉の前まで走る。


 そこで見たのは既に扉を開けており、中に入らんとしているエリンに後ろ姿。


 バギバギバギィッ!!


 「突然なんなの!」と声をかけたい気持ちを我慢してもう一歩踏み出したと同時、フロッガーが屋根に着弾した。盛大な騒音を響かせて屋根が壊れる。


「うおゎっ!?」


「なっ――チィッ、またあいつらか!?」


 中から驚く声と驚きに怒りを滲ませた声が聞こえてくる。気を逸らすことが出来たのは間違いない。


 突発的なエリンの行動は日常茶飯事だが、今回ばかりはどういう……


 魔法!


 小屋の中で魔力の揺らぎを感知。この感じはまず間違いなくエリンが魔法を発動したということ。


 一体全体、何があったっていうのよ!


 数秒遅れて小屋に突入。蛙弾で既に隠密もへったくれもないので気兼ねなく口を開く。


「エリン! 流石に今回ばかりはしっかりとした説明、を……」


「リゼ、ありがとう。おかげで隙をつけたよ」

 

 先ほど単身で乗り込んだエリン。しかし、現在は自身を囲って守るように【アクア水の手】を複数展開しており、背中には小さな女の子を庇っていた。


 今にも泣きだしそうな顔で震えており、エリンの背にしがみついているおさげの少女。


 こんな子、居たかしら?


「さっきね」

 私の疑問を見透かしているかのようなタイミングでエリンが反応する。


「このデカブツが気色悪い顔でおじさんから視線を外した時に気が付いたの。片隅でこの子がうずくまってるって」


「……なんだぁ。蛇じゃねぇのか」

 

 グシャ


 枯れた声とともに何かがつぶれる音。


「せっかく俺のために作らせた城が壊れちまった」


「城、というよりは犬小屋じゃない?」

 エリンは動揺することなくいつも通りの調子で言う。


「……てめえら、なにもんだ?」

 アルバートのように激昂するわけでもなく、デカブツは私たちを睥睨して静かに口を開いた。


 足元には潰れたフロッガーが二匹、見るも無残な姿になっている。

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