第17話 水の都セレジー東部
ロベリア王国、主要都市のひとつであるセレジー。水の都と謳われるこの都市の中でも、東部は山脈が長い年月で育んだ水の恩恵を最も受けている場所だ。
山林から河川、湖、そして南部を巻き込む形で広がる広大な平原の規模は、ロベリア王国外を含めても比肩する場所が見つからない。
豊かな自然に恵まれた東部は様々な動植物の住みかとなり、また、セレジーに根付く国民たちの生活をも支えている。
また、東部ではこの自然を利用した農牧が盛んだ。天然の動植物の収穫、狩猟に加え、環境をそのまま利用した栽培や飼育も行われているのである。
ルーロー牧場は
その中でも特に力を入れているのが家畜鶏の飼育。つまり、卵の生産だ。
牧場主はカルク・ルーロー。父から牧場を継いだ三代目。妻と一人の娘がおり、三人で牧場を経営している。
カルクは子煩悩らしく、娘の誕生日には――
「王研って間諜か何かなのかしら。怖いわ」
私は恐怖の元凶――エリンから渡されたメモを、汚い物を触るかのように摘まんでぴらぴらとさせる。
エリンは私の言葉を受けて口から小さく空気を漏らす。
「心外ね。王研は私たちの生活を豊かにしてくれる立派な発明機関。つまり、お友達!」
「あんな変わり者とお友達になるのはご遠慮したいわね」
メモをエリンに突っ返しながら、刹那主義で快楽主義の金髪ぼさぼさ頭所長のことを思い出す。
彼女の「アハハァ!」という笑い声、ぎょろっとした目が頭にこびりついてしまっていた。
さらに、したり顔でピクニックを勧めてきた笑顔を思い出してしまい、ふつふつと怒りがよみがえ……
パチンッ
「……? どしたの?」
突如頬を叩いた私に驚いたようだ。エリンがただただ純粋に疑問のようで問うてくる。
「何でもないわ。ほら、牧場が見えてきたわよ」
思考の沼はストレスの原因。沈む前に脱出しないと。
頭の中でも騒がしいレジィを意識して追い出すと、目的地であるルーロー牧場を目指して歩を進める。
「なんかリゼが怖いな……?」
「私はあなたが怖いわよ、エリン」
「え、突然に何?」
心底言葉の意味が分からないと言いたげなエリンを前に、呆れて強く出ることのできない私。
まずは……
「とりあえず、そいつに座るのはどうなのかしら」
「大分座り心地良いんだよ? リゼも隣にどうよ」
エリンは不服そうに唇を尖らせると、フロッガーの頭をぺしぺし叩きながら同席を勧めてきた。
私にフロッガーの頭に座れと言うの……?
「嫌。べたべたしそうだもの」
蛙といったらあの湿気に満ち満ちた触り心地を思い出してしまう。湧き上がるように顔を見せた子供の時の恐ろしい記憶を追い出そうと脳内で頭を振る。
「大丈夫! べたべたしないから。それにほら」
エリンはおもちゃを与えられた幼児のごとく目を輝かせながら、フロッガーの肌に人差し指を押し込む。
それはもう、まさに「ぶにゅぅ」という擬音が聞こえてきそう。
「
「すっごく柔らかくて癖になる面白さなんだよ――うわっ!?」
謎に食い下がって一緒に座ろうとするエリンがだるかったので、魔法で生み出した茨をフロッガーに巻き付け、エリンのお尻から引っこ抜いた。
突然体重をかけていた先が無くなったことでエリンのバランスが崩れて尻もちをつきそうになるが、怪我を負わせてしまったら私が面倒くさいことになるのは確定なので、もう一本の茨で支えることにする。
「リゼ……」
「お嬢様、魔物に座るなどエレスト家の者がすることではありませんわ」
半眼でねめつけるような視線を送ってくるエリンに対しかしこまった従者セリフで返してやる。
「まぁ、いいよ。――で、リゼ」
これ見よがしにため息をついたエリン。一瞬、「勝った」という気持ちが沸き上がったが、続くエリンの言葉のトーンを受けて表情には出さない。
「確定だよね?」
「だと思うわ」
短いやり取りののち、茨を一瞥して操作。ルーロー牧場入り口にあたかも門番のように立っていたフロッガーを絞め殺した。
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