第12話 寄り道は必至③
「でしょ」
エリンは短く返答したのち、再び串焼きにかぶりついて鳥肉を堪能している。
頬に手を当てながら「おいしぃ」とこぼす様は本心だと見受けられた。
毎日高級食材がふんだんに使われた食事をしている身分にもかかわらず、よくもまぁ
普通の貴族なら口に入れた瞬間、嗚咽した上に涙を流しかねない。最悪の場合作った者が家族もろとも処刑……なんてこともあり得る。
その点、水の都に住む者たちは恵まれているのだろう。他の場所と比べても貴族関連でストレスが溜まることは少ないはず。
エリン――エリンワース・エレストが民に慕われるのも当たり前というものだ。私としては少し気に入らないのだけれど……
「ちなみに一本いくらしたしたのかしら」
思考を浮かせて時間をつぶしている間に、私から貰った一本を完食したらしい。
早速二本目にかぶりつこうとしているところに割り込んで声をかければ、若干の不機嫌さを滲ませてこちらに視線をよこしてくる。
「そんな目で見ないでちょうだい。私が悪いことしたみたいじゃないのよ」
「食事の邪魔は悪いことでしょ?」
「今の今まで会話の流れだったわよ! マイペースが過ぎるっ」
思わず大きい声を出してしまったが、たいしてエリンには響いていないようだ。すぐさま二本目を食し始める。
「で、いくらしたの?」
ここで引いてしまえばしばらく話にならない。そう思った私は強引に聞き出すべく言葉を重ねた。
……意固地になっている気も若干あるが、ここでは目をつむる。
「一本150エル。執事長に請求しておいて」
「あぁ、また私が小言を頂戴する流れ――って150エル!?」
エリンが「うるさい」と言わんばかりに目を細めた。ものすごくムカつくが、分が悪い。言い返せない。クソ。
「それ、めずらしい通り越して怪しいわ……」
一本150エル。この国の至る所で量産されていて、民の味方である安酒と同じくらいの値段ではないか。
ちなみに、原材料は雑穀で癖のある味だが私は好きだ。ストレスが溜まった時は金にモノを言わせて浴びるように飲む。
またそろそろ仕入れようかし……こほん。
脳内で咳払いを一つ。思考を切り替える。
鶏肉、しかも串焼きでこの値段はおかしい。もっと高くてしかるべきだ。
この国で飼育されている
私だってエリンが食べているのを後ろで控えて見るのみなのである。
出店で鶏肉が食べられるとなれば、多少……いや大分怪しくても人々が殺到するだろう。あの人ごみが出来るのも頷ける。
しかし、私の頭は冷静に判断を下していた。
「偽物よねぇ……」
「まぁ、十中八九?」
思わずつぶやいた私の言葉にエリンが間髪入れず、当然でしょといった風に反応する。
残念ではあるが、エリンの様子にムカつきはしない。私だって怪しいと思ったし、エリンは高頻度で鶏肉を食している。一口食べればその違いに気が付くはずだ。
「これは、調査が必要よね」
ふと、エリンがそう口にする。
「……え?」
「だから、調査だよ。調査!」
呆けてしまった私を置いてきぼりにして、「面白そうじゃん!」と立ち上がるエリン。
ここで私ははたと気付いた。
これはまた、面倒事になる予感……
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