第11話 寄り道は必至②
「ん……おいしいですね、これ」
皮はパリッと、溢れる肉汁、ぷりっとしたこの質感に甘い味。ご主人を一端放置して完食したのち、正直な言葉が口を出る。
「あ、おいしいのね? じゃあ私の分も……おじさん! もう十本頂戴な!」
「……ふむ」
ここ気付く。どうやらこの人だかり、このお肉を提供する出店に集まっているお客によるものらしい。
エリンに追加注文を受けた店主のおじさんは静かに頷くと、さっそく作業に移った。
「ん?」
また気づく。
街中で買い食いする貴族令嬢とは、果たして存在していいものなのか? と。
いつもの通りの破天荒と判断。基準がバグってしまっていた故にスルーしてしまったが、もし腹でも壊されたりしたら従者としての責任問題になるのでは?
「エリン様――」
またまた気づく。
エリンの「あ、おいしいのね? じゃあ私の分も……」という言葉。
つまり、まだ食べていない?
つまり、取り合えず私に食べさせ――毒見?
私に何てことさせやがるのよ……
しかし、文句を言ったら「従者として当然のことでは?」と返されてしまうのが目に見えたため、何も言わないことにした。
「リゼ、どこかベンチでも座って食べようよ」
「分かりました。私がいい場所を探せばいいんですね」
「気の利く従者で嬉しいわ」
ちなみに、ここまでの会話でエリンはこちらを一回も振りかえっていない。まだ串焼きが出来上がる気配もない。
「それはよかったです」
つまり、十本出来るまでに場所を見つけてこい、ということである。
「はい、これ」
「
エリンから無造作に差し出された四本の串焼き。先ほど口に突っ込まれたものとは違い、タレがふんだんにかけられている物だ。
雑に受け取ると手がベトベトになるのは確定。魔法で茨を一本を出現させ、持ち手を巻き付けて保持する。
「惚れ惚れする手際よね、相も変わらず」
お礼の一つも言わない私に対して咎めることもない――そういうところが雑――エリンはおもむろに茨へ手を伸ばしてくる。
人差し指を一振り。茨をエリンから遠ざけ、「怪我でもされたら私があんたのお父さんに怒られるのだけれど」と釘を指せば、文字通りぷくぅ~と頬を膨らませた。
「ケチ! 触らせてくれないとリゼが私に無礼を口きいたってチクるからね」
さながらわがままをわめく子供である。なりは小さいがそんな歳でもないでしょうに。
「お好きにどうぞ。妙にかしこまった言葉遣いをされた方が落ち着かないと言ったのはそっちだわ。お貴族様は自分の言葉に責任を持てないのかしら?」
私を従者にするとき、一番初めに言った言葉である。「普段は無理にへりくだる必要はないわ」と。
「貴族が北って言えば南も北になるの!」
急に大きい声を出さないでほしい。ほら、あんたの手から串焼きが落ちそう――あ、問題ないのね。
嫉妬したくなるほどのスピードで地面から水の手が現れて落ちかけた串焼きをキャッチ。そのまま取りやすそうな高さに保持される。
「あんたも腐るほどいる側の貴族なのね……」
そう言ってやれば「失敬なっ」とさらに憤慨。頭上にプンスカと出てきそうな怒り具合だ。
「ほら、早く食べないと冷めちゃうわよ。せっかくなら一番おいしい時にたべなくちゃ」
律儀に従者と半分こにしたうちの私の一本を差し出す。多すぎてさすがに食べきれないし。
「あら、気が利くぅ。ありがと」
エリンは素直に串焼きを受け取ると、すぐさまかぶりついた。
よし、気が逸れた。
あまり大きい声を出されると、せっかく人の少ない路地裏に案内した意味がない。私だってかしこまった言葉遣いを続けるのは気疲れするのである。
それに、私とエリンの二人なら路地裏のゴロツキなど敵ではない。というか、エリンを案内する前にここにたむろってたゴロツキを何人か追い出している。
「で、おいしいの?」
「これ、鶏肉って言われたんだけど」
なんだ唐突に。せっかく聞いてあげたんだから感想くらい……
ご主人への文句が湧き出そうになった瞬間、ふと疑問の方が先にこんにちはしてきた。
「焼き鳥って、めずらしいわね?」
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