14 先輩の退職

 いよいよ先輩が退職する日を迎えた。


 業務を終えて先輩が社員全員に挨拶して回る。


 僕は先輩が帰る間際に声をかけた。


「先輩、お疲れ様です。あの、本当に、ありがとうございました」


「あーお疲れー! じゃあね、頑張ってね」


 あっさりとした無難な言葉を交換した。


 それ以上話そうとすると言葉に詰まってしまうから、これが僕の精一杯だった。


 先輩は車に乗り込む時、名残惜しそうに僕を振り返った。


 僕は深々と頭を下げた。


 先輩に褒めてもらいたくて頑張っていたわけじゃない。


 だけど、僕を見続けてくれた人がいなくなってしまったと思うだけでも胸に風穴が空き、鈍い痛みが吹き抜けた心地がした。





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